2017年はvTuberブームの年でした。

キズナアイちゃんのActiv8にくわえ、アップランドのシロちゃん、カバーのときのそらちゃん、DUOのミライアカリちゃん、など、企業発のvTuberが飛躍した年でした。

2018年は、去年のvTuberブームを受けて、様々なVRアバタープラットフォームが立ち上がった年になりました。

ところで、vTuberブームが起きたのが2015年でも2016年でも無く、2017年だったのは何故でしょうか。

それはvTuberを生んだ技術革新と関係があります。

2016年5月に発売されたPERCEPTION NEURON(パーセプションニューロン)は、従来数百万円かかっていたモーションキャプチャシステムをたったの20万円までコストを下げてくれました。

この技術革新のおかげで、半年後の2016年11月にキズナアイちゃんが生まれました。

しかし、 PERCEPTION NEURON は従来より大幅にモーキャプの敷居を下げたとはいえ、まだまだ取り回しが厄介で、例えば使っているうちに段々トラッキングの回転がズレてくるなど、運用が面倒なものでした。

実はキズナアイちゃんと同時期に、もう一つの技術革新が起きてました。

UnityアセットのFinal IKにVRIKコンポーネントが実装されたのが2016年10月です。

これにより、VRHMDとコントローラを使って頭と両手の位置をトラッキングしてvTuberのような事ができるようになりました。

当時のVRHMDを持ってるUnity開発者たちは速攻で試してみてました。

大抵の人はちょっと試すだけで「へえ~」って言って終わってましたが、みゅみゅさんは継続して生放送を行ってました。

HMDによるモーキャプは非常に手軽かつ、長時間トラッキングしてもズレたりしない安定性があり便利な反面、両手と頭しかトラッキングできないデメリットがありました。

2017年3月にViveTrackerが発売され、Viveでも全身のトラッキングが可能になると、Viveによるモーキャプの優位性は相当高まりました。

NEURONを使った収録では、少なくとも表情変更を担当する人が必要だったりして複数人で対応する必要がありましたが、HMDならコントローラに手のポーズや表情を割り当てれば一人でも収録可能なくらい手軽でした。

特に安定性は生放送するためには絶対必要で、NEURONだと生放送中に腰がねじれたりするリスクが高いため危険でしたが、HMDモーキャプなら安定感があります。

vTuberが生放送する必要性に駆られたのは、Youtubeのスーパーチャットで投げ銭を受けられるのが生放送だけだったからです。

それまではvTuberが収入を得る方法はほぼありませんでしたが、スパチャによって直接ユーザーから対価をもらえるようになったので、企業vTuberが生放送を行うのは絶対条件みたいなものでした。

ちなみに2017年の終わりごろまでvTuberのスパチャが始まらなかったのは、当時Youtubeでは不適切な動画にCMが表示されてしまってる問題が起きていて、その対処のために新規の収益化審査がストップしていたためです。

vTuberのスパチャが始まってみると、驚異的に稼ぐvTuberが続々と現れました。

話は少し戻りますが、HMDモーキャプのお手軽さを最大限活かしたのが2018年3月に活動開始した東雲めぐちゃんです。

東雲めぐちゃんはAniCastシステムでOculus Riftを使ってモーキャプしています。

画期的なのは、普通の企業vTuberは収録のたびに会社に来てエンジニアなどと協力しながら収録していた(と思われる)のに対して、東雲めぐちゃんは魂の人が自分の家で一人で生配信している事です。

これにより、毎日朝早くにワンオペで生放送するという、他の企業vTuberでは考えられない機動力でのvTuber活動が実現されました。

お手軽という話で言えば、月ノ美兎ちゃんなどにじさんじメンバーが活動開始したのは2018年2月です。

他の企業が一人のvTuber運営で一杯いっぱいだったのに対して、にじさんじはなんと8人ものメンバーをいきなり運営開始しています。

それを可能にしたのは、vTuberは3Dキャラじゃないとダメというそれまでのなんとなくのお約束を打ち破って、Live2Dによるキャラクターを使ってモデル制作の期間、費用の圧縮です。

3Dモデルならではのわちゃわちゃ動いたりするのは別にvTuberの与えるプレゼンスとあんま関係ないのじゃないか?という問いかけになりました。

さらに東雲めぐちゃんと同じように、各メンバーにiPhoneXでFaceRigライクなフェイストラッキングができるアプリを渡して、家でワンオペ生放送してもらうことで運営コストを無くしました。

これにより一気に沢山のメンバーを活動させることができ、アイドルグループのようにキャラ同士の掛け合いのシナジーで魅力を引き出す箱推しを可能にしました。

高精度なフェイストラッキング(Animoji)が搭載されたiPhoneXが発売されたのは 2017年11月3日 です。いちからのメンバーはここから4ヵ月で速攻でにじさんじを立ち上げた事になります。

月ノ美兎ちゃんなどは後に3Dモデルも用意されて、最初は2Dで始まって人気が出た順に3Dモデルも用意されていくというスキームも生まれました。

技術革新で生まれたvTuberですが、その後はこんな感じで運用の最適化、簡略化が進められて行きます。

この辺で「vTuberの人気は結局魂の人の面白さ次第」という結論に達し始め、「だから配信開始するまで人気が出るかわからない」そして「せっかくコストをかけて作ったキャラクターが魂の人が合わなくてコケちゃうのはもったいない」という風に考える企業が出てきます。

ダメだったら魂の人を差し替えればいいくらいに思ってた企業もあるようですが、そうは問屋が卸さない。

この状況を踏まえて必然的に始まってしまったのがいわゆるバーチャル蟲毒です。

オーディションと称して一つのモデルに12人の魂の人がそれぞれ配信開始して、一番人気の人が本採用されるというシステム。

これから先vTuber界隈はどうなっていってしまうのか?

わかりません。

しかし、今までのvTuberの流れに変化を起こしていたのは、NEURON、VRIK、ViveTracker、iPhoneXなどの技術革新だという事がわかりました。

少なくとも言えるのは、現代では目まぐるしい技術革新が日夜起きており、これから先のvTuber界隈もその度にゲームチェンジが起きていくであろうという事です。

vTuberは一過性のブームに終わらない

果たしてvTuberは一過性のブームに過ぎないのか?と言われると、そうでは無いんじゃないかと私は思います。

vTuberの本質的な価値は、生産性を飛躍的に向上させた事にあると思うからです。

例えば東雲めぐちゃんの30分のワンオペ生放送を、従来の手打ちアニメーションで作ったとしたら、200時間くらいかかるのではないでしょうか。とすると生産性は400倍になった事になります。

一旦上がった生産性はもうそれ以前に戻る事は出来ません。ゆえに、vTuberはその形が変わっていったとしても何らかの形でずっと続いて発展していくと思います。

2019年1月からは「バーチャルさんはみている」というvTuber技術を使ったアニメがテレビ放送開始するそうです。

もちろん普通のアニメとvTuber番組では全然違う物ではあると思いますが、従来のアニメに対して仮に100倍の生産性、つまり100分の1のコストで番組が作れると言われたら、スポンサーにとって魅力的な話なのではないかと思います。

こういった番組の人気次第ではありますが、vTuberスタイルのアニメがテレビ番組の一つのスタイルとして定着する可能性も無くは無いです。

今後のトレンド予想:vTuberの企業離れ

私が思うに、vTuberが生まれたのはNEURONなどの技術革新のおかげであって、現在vTuberビジネスをやっている企業がなにか特別な技術を有してるわけでは無いのではないでしょうか。

故に、ねこますさんやみゅみゅさんは個人で企業と同じようなvTuber配信を行ってました。

VRIKやFaceRigを使って個人でvTuberになるのは今や難しくない事ですから、別に企業所属のvTuberでなく個人でやっていって人気になるvTuberが今後は増えていくのではないでしょうか。

そういう流れを察知してる企業は、むしろ個人のvTuberデビューを支援するためにアバターモデルを簡単に用意できるようなサービスを開始しています。

VRoidやVカツ、エモモなどです。

vTuberビジネスの流れも個々のメンバーのプロデュース業よりも、沢山の個人のvTuberデビューをサポートするプラットフォームとなって元締めとして収益化するビジネスに移行しつつあるのかもしれません。