今回の記事は結構煽ったタイトルを付けたが、内容も煽った感じにしていこうかなと思う。
というのも、どうもみんな画像生成AIの現状の正確なところを把握し損ねてる人が多いんじゃないか?と感じて、もっとちゃんと周知した方がいいかもしれないと感じたからだ。

正直言って、私個人としては、別にAIが野放しになって絵師さん達の仕事を奪おうがどうしようが、あるいは逆に人類がAIを規制する事になろうが、なるようにしかならないと思うし、時代の流れについていくだけである。
つまり、どっちでもいい事だ。

しかし、絵師さん達はいい物を作ろうと純粋に日々頑張ってるだけなのに、何だか分からん所で勝手に話が進められてて、気付いた時にはAIにすべてが奪われてしまっていた…みたいな事態になるとしたら、それはフェアじゃないよねと思う。

だから、そうなる前に誰もがとりあえず現在起きつつある事を正しく知る権利があると思う。

Stability AIのモスターク氏の話

まず、AIを開発、公開している側の論理を聞いてみよう。

先日、Stability AI社のCEO、モスターク氏のインタビュー記事が公開された。
Stability AIは“Stable Diffusion”(以下SD)という画像生成AIを開発して、オープンソースとして世界中にフリーで公開した会社だ。

【CEO直撃】THE GUILD深津氏が画像生成AI「Stable Diffusion」開発元に聞く、AIビジネスの“新時代”

モスターク氏は、人類全体の創造性を向上させるためにSDを作ったと言う。現在、大抵の人はクリエイティブではない。つまり、何かを創造する力を持っていない。
だが、人間は全ての人が本来的にはクリエイティブなハズだ。SDのようなAIが全ての人々の創造性を解き放つ。

なぜStability AIは、SDをオープンソースとして誰でも無料でダウンロードして弄れる形で公開したのだろうか?
これについて、モスターク氏は、今までは企業がAIを独占していたのが問題だったという。
つまり、我々は企業が提供するAIの機能を、受動的に使わせてもらう事しかできなかった。もっと人々は主体的になるべきだという。

モスターク氏は「インテリジェント・インターネット」というビジョンを掲げている。個人でも、会社でも、国でも、誰もが自身のためのパーソナライズされたAIを持てるようになる。人々はただの消費者であってはいけない。もっと主体的に、創造的になるべきだ。
そのためにSDをオープンソースとして公開したわけだ。

これにより、人々は自分の好きなようにAIを弄くれるようになった。自分の好みに合わせてAIをカスタマイズする事も可能だ。たとえば柴犬が好きな人なら柴犬の画像を追加学習(ファインチューニング)させて柴犬特化のAIを作れる。
Stability AIは、クリエイターたちのために、AIをカスタマイズした独自モデルを構築するチュートリアルをもうすぐ公開するらしい。それらのカスタマイズAIを売買するためのマーケットプレイスも用意されるらしい。クリエイターは今までは自分で絵を描いて売っていたが、これからは絵を描くAIを作って売るようになるというわけだ。

しかし、このようなAIによって、アーティストたちは、自分たちの絵がAIにパクられるんじゃないかと危惧している。それについてはどう考えているのか?
モスターク氏が言うには、まず現代は急速にテクノロジーが進歩している時代であり、何もかもがずっと今まで通りというわけにはいかない。Excelが登場すれば会計士の仕事は変わってしまうし、Photoshopが出ればアーティストの仕事は変わってしまう。画像AIだってそういうものだ。

AIがアーティストの画風(スタイル)をパクる事を危惧している人たちがいるが、そもそも論として、画風に著作権は存在しない。たとえば、鳥山明の画風を完全に模倣したマンガを誰かが描いたとしてもそれは合法だ。単なる模写やトレスになると違法の可能性が出てくるが。

アーティストというのが単にイラストを作れる人の事を指すのなら、SDはアーティストを一気に10億人に増やしただけのことだという。
しかし、アーティストという仕事にとって重要なのは、ファンコミュニティ、そしてナラティブであり、これらはAIがパクる事ができないものだという。

余談だが、これに似た話を聴いた事がある。
「働くことの人類学」というポッドキャストで出てきたプロ棋士についての話題だ。

働くことの人類学 ・第6話・前編「テクノロジーと共に働くこと」

今となってはAIの方が人間のプロ棋士よりも将棋は強いらいい。
だからと言って、棋士という仕事をAIが置き換えたと言えるのか?
たしかに将棋が強くなければ棋士にはなれないが、しかし棋士の仕事は将棋を指す事だけではないという。
たとえば、和服を着こなせる事だって棋士には必要だし、将棋の実況解説だって棋士の仕事だし、ファンが持ってきた色紙や扇子に揮毫してあげるサービスも仕事の内だ。
AIがいくら将棋が上手くたって、これらの仕事をこなせるわけじゃない。だからAIが棋士という仕事を置き換える事はできないというわけだ。

同様に、いくら画像AIが絵を描けるようになったとしても、アーティストの仕事全てを置き換えれるわけじゃない。これからはアーティストの本質というのはAIにはできない事に移行していくというのがモスターク氏の言い分だろう。

画像AIへの反論

というわけでモスターク氏の言い分を紹介してきた。
彼の言い分は一見もっともらしく聞こえる。
たしかに、企業にAIが独占されるよりは、SDのようにオープンソースで公開されて誰にでも自由に使える世界の方がマシだろう。

しかし、そもそも論として画像AIの是非ってどうなの?と言いたい。

まず、我々は今まで”画像AIなんか存在しなくても何にも困ってなかった”のだと言いたい。

例えば、飢餓問題については、実際に世界には食べ物に飢えて困っている人々が実在するわけで、もしも空気から食べ物を作るテクノロジーを発明したりすれば、それはたしかに人類は助かると言えるだろう。実際に困っていた人がいて、実際に助かった人がいる。問題解決とはこういう事だ。

モスターク氏は「人々はもっと主体的に!創造的に!ならなきゃいけない!」というけど、大きなお世話だったかもしれない。実際、「主体的になれなくて困ってるんだよね~」とか「創造的になれないんだよね~」とか困ってる人なんて周りにいるだろうか。誰も困ってなかったとしたらそれは元々問題なんかじゃなかったのだ。

画像AIのメリットなんて、モスターク氏達が勝手に言ってるだけで、作って欲しいなんて言ってないのに勝手に作って押し付けられているようにも見える。

このように、画像AIのよい面がフワッとしてて怪しいのに対して、悪い面については確実に存在する

まず、Stable Diffusionのような画像AIは、どのようなデータを使って学習しているのか?つまりAIに食わせたエサの正体は何なのか?という話だ。

我々の素朴な権利意識に照らし合わせると、「AIの学習データは、当然、パブリックドメインのような権利フリーの画像だけを使ってるんでしょ?」と思われるかもしれないが、全然そんな事はない。

SDはLAIONが提供する巨大な画像データセットの中から23億枚の画像を使ってAIを学習させている。
LAIONは、AIの研究者たちが利用しやすいように、色んなデータセットを準備してあげている非営利団体だ。
LAIONは著作権に触れるような事は何もしていない。画像自体を公開しているわけではなく、あくまで画像のURLリストを提供しているだけだ。そのURLリストから画像をDLしてくるのはそれぞれのAI研究者が自分でやる必要がある。

じゃあLAIONはどこからデータセットを構築したのか?というと、Common Crawlのデータを使っている。
Common Crawlは、世界中のWebサイトをスクレイピングして収集している非営利団体である。
それぞれのWebサイトはCommon Crawlによるデータ収集を拒否する事も可能だ。サイトのrotbots.txtに追記すれば、クロウラーはそれを尊重してくれる。

で、結局のところSDが食ってるデータってどんななの?という話に戻るが、アンディ・バイオ氏は、SDの学習データの正体を追跡して、23億枚のデータセットの内、1200万枚についての調査結果を公開した。↓

http://laion-aesthetic.datasette.io/laion-aesthetic-6pls/images

このサイトを開いて、検索欄に、たとえば”pokemon”などと入れて検索してみれば、クリエイター達が描いたポケモンのイラストがズラッと出てくる。
これらのイラストは、当然ながら著作権フリーでは無いし、それぞれのクリエイターに対して「あなたのイラストをAIの学習に使用するがよろしいですか?」なんて許可を取ってるわけでもない。

つまり、勝手に世界中の絵師の絵をAIに食わせてるわけだ。
普通に考えると、「人の描いた絵を勝手にAIに学習させるなて、そんな事が許されるハズがない!」と思うかもしれないが、少なくとも日本においてはこのような事は残念ながら合法である。

もしかすると、あなたが描いた絵も勝手に使われているかもしれない。このサイトの検索で出てこなかったとしても、この調査結果はSDが学習した画像の内のほんのごく一部に過ぎないので、実際の所は分からない。

画像の出どころ(ドメイン)に目を向けてみると、ピンタレストから収集した画像がかなり多い。twitterから収集した画像もある。
だが、pixivから収集した画像は無いようだ。

pixivはガイドラインで「クローラーなどのプログラムを使って作品を収集する行為」を禁止している。Common Crawlはこれを尊重してpixivからはデータ収集しなかったのかもしれない。

だからと言って、安心するのは早い。ぶっちゃけた話、pixivのイラストはピンタレストやその他のサイトによって大量に無断転載されている。そのピンタレストの画像はLAIONによって収集されまくってるわけで、このような画像ロンダリングによって、結局pixivのイラストは勝手にAI学習に使われまくってしまってるだろう。

こうやって、みんなが描いた大量のイラストをAIが勝手に学習しまくった結果どうなるかというと、AIはそれぞれの絵師の絵を自在にパクれるようになった

8月の頭の段階でMidjourneyが描いていた悟空やナルトは、お前ミリしらか?せいぜいフワッとした悟空の概念を描いてる程度に過ぎなかったのが、たった1ヶ月の間に10倍くらい本物に似ている悟空を描けるようになってしまった。
このペースで行けば、1年後には完全に本物と見分けが付かない悟空を描けるようになっててもおかしくない。
このような事は、ドラゴンボールのような有名なマンガだけに限る事ではない。あなたの絵に対してだって同じ事が起きるかもしれない。いや、起きるだろう。

たとえば、SDにはimg2imgという機能がある。普通はプロンプトだけを与えて画像を生成させるが、img2imgでは下絵を渡してそれにAIに加筆してもらう事ができる。
もしも悪人が他人の絵をimg2imgで加工したらどうなるだろう?その悪人は他人の絵を堂々とパクッて、AIにちょちょっと加筆してアレンジしてもらい、「ハイ、これ私が描きました!」と言ってしまえるわけだ。

「こんな事が許されるはずがない!」と思うかもしれないが、モスターク氏も言っている通り、画風には著作権が存在しない。誰かが勝手にあなたの画風そっくりの絵を描く事も、そのような画像を生成する事も自由なのだ。

画像AIがもたらす被害はイラスト界隈にとどまらない。例えばこちらの記事では、SDを使ってボリス・ジョンソンが武器を持っている画像を生成しちゃってる。↓

This startup is setting a DALL-E 2-like AI free, consequences be damned

ハッキリ言って本物の写真と見分けが付かないクオリティだ。すごいと言えばすごいが、こんなものは当然悪用する人が大量に出てくるだろう。
DALL-E 2では禁止ワードなどで有名人のディープフェイク画像が作られないように工夫されていたが、SDはあくまでオープンという事で、安全装置の類も一切積まれてない。
つまり、SDは誰もがクリエイティブになれる世界をもたらしたと同時に、誰でも簡単にディープフェイクを作り放題な世界をもたらしてしまった。

また、Midjourneyではエッチな画像が生成できないように工夫されていたが、それについてもSDではエロ画像作り放題である。
たとえば、こちらではRedditのSDスレの画像がまとめられているが、大量のエロ画像がSDで生成されている事が分かる。↓

https://booru.plus/+stablediffusion

誰もがクリエイティブに有名人のフェイクポルノを生成できる時代…考えるだけで頭が痛くなるが、これが現実だ。

気付いてないかもしれないが、画像AIは、知らず知らずのうちに我々の意識を決定的に侵食してしまってる

例えば、twitterでは鉄道の写真を生成させたり、ドラレコ画像を生成する事が流行っていた。

結果、どうなったかというと、現実の事故写真を見ても「AI画像でしょ?」と思うようになってしまった。

同じような事は、イラストの世界でも起きている。
Midjourneyなどで生成された綺麗なイラストを沢山見慣れた結果、人間が描いたイラストを見てもAIが描いたのかと思ってしまう人が出てきているらしい。

一体何が起こってるんだろう?というと、画像AIの登場は我々の認知を不可逆的に変化させてしまったという事だ。

画像AIが流行り出した8月以降とそれ以前では決定的に別物の世界に変わってしまった
どう変わったか?というと、8月以降はもはや我々は写真を見ても本物なのかAIなのか分からなくなったし、イラストを見ても人間が描いたのかAIが描いたのか分からなくなってしまったのだ。

それがどういう世界なのか?というと、例えば写真が本物だと証明するためには、もはや静止画ではダメで、動画で撮影する必要があるかもしれない。(何故なら今のところ動画のフェイクを作るのは大変だから。しかし、モスターク氏は動画を生成するAIも作るつもりだと言ってるから、いずれ動画もダメになるだろう)
そして、イラストについてもAIじゃなくて自分が描いたという事を証明するには、お絵描きのタイムラプス動画を撮影しておく必要が出てくるかもしれない。

さらに、8月以降の世界では、これはすでにそうなりつつあるが、インターネット上の画像はAI生成画像だらけになってしまうだろう。
言わば、インターネット全体がAIに汚染されつつあるのだ。
これはAIの開発企業にとっても困った事態を招くのではないかと思われる。

というのも、インターネットがAI汚染された後で、新たに画像AIを学習させようと思っても、ネットから収集する画像の大半はAI自身が生成した画像になってしまっているだろう。

AIが自分で描いた絵を再学習する事を繰り返したらどうなってしまうのか?

これはちょうど、イラストの模写を繰り返す事に似ているかもしれない。常に毎回、鳥山明先生が描いた本物の悟空を見ながら模写すれば、問題は起きない。しかし、自分が模写して描いた悟空を、さらにそれを見ながらもう一度模写して…という事を10回、100回繰り返すとどうなるだろうか?
恐らく、どんどん手癖が混入していって、本物の悟空からどんどん離れていってヘンテコな絵になってしまうと想像される。

このように、AIコンタミを繰り返すと、むしろAIの生成する画像はどんどん劣化していく可能性さえある。今のSDがピークになってしまい、まったく本物らしい画像が生成できなくなるかもしれない。AIは自分で自分の学習データを崩壊させてしまうわけだ。

また、絵師さん達がAIに頼りきりになってしまう事態も問題だ。現時点で、AIの生成画像にちょちょっと加筆するだけでメッチャクオリティの高いイラストが描けてしまってる

こうなってくると、みんな「真面目に自分の手で絵を描くなんてバカらしいや」と言って、誰も彼もAIに頼り切ってしまうようになるかもしれない。
クソ真面目に人体デッサンを勉強する人もいなくなるかもしれない。

「でも、それってカメラが発明されて肖像画描く画家がいなくなった時と同じじゃないの?」と思うかもしれない。
だが、カメラとAIでは決定的に違う。カメラでどんだけ撮影したところで、現実世界は汚染されない。しかし、絵師がAIを使うようになると、インターネットは汚染されてしまう。

AIコンタミが深刻化したとしても、写真についていえば、ネットの画像を使うのをやめて、現実世界で写真を撮りまくって、それをデータセットとして使えば済む話だ。
しかし、イラストについてはそんな手は取れない。ネットのビッグデータが汚染されてしまえばそれでオシマイである。

その頃には人間の絵師もAIに頼りきりで、自力で絵を描く画力を完全に失ってしまってる事も考えられる。
人間が画力を失い、AIも画力を失い、人類は絵がヘッタクソになって、「20世紀の頃の人類って絵が上手すぎじゃね?」とか言ってるかもしれない。

モスターク氏はAIが人類にクリエイティビティをもたらすと主張しているが、実際にAIがもたらすのはクリエイティビティの崩壊かもしれない。

AIがもたらしかねないこのような弊害について、現状で十分な議論がなされているんだろうか?
ちゃんと議論しないままAIがなし崩しに野放しになっているとしたら、それはマズい。

mimicとかの話

Midjourneyのベータが一般公開されたのが、7月末だ。

Midjourney Beta – キーワードを元にAIの力でアーティスティックな画像を生成してくれるサービス!無料のオープンベータ版を利用可能!

そこからかなり急速にtwitterでバズり始めた。

Midjouneyについては、画像AIの是非だとか、炎上したりだのといった事態はあんま見かけなかった。

そんな中、8月末にリリースされたのが”mimic“だ。

mimicは、イラストをAIに学習させると、そっくりの画風のイラストを生成できるようになるサービスだ。

このサービス、公開されるや否や、メッチャクチャ叩かれた
そして、たった1日でサービス終了に追い込まれた
mimicはイラストの学習に数日を要するため、実際にmimicがどういう画像を生成してくれるのかを誰も目撃しないまま終わってしまった。

私は当時、「なんでMidjourneyが叩かれないでmimicが叩かれるんだろう…?」と思っていたが、多分mimicの開発者達だってそう感じてたと思う。

mimicが叩かれた理由は、「こんなん他人の絵を食わせたら他人の絵をパクれちゃうじゃねえか!」という点だ。
mimicは利用規約で他人の絵を食わせる事を禁止していた。しかし、やろうと思えば他人の絵を食わせる事だって普通に可能であり、仕組みとして禁止する事ができてなかったのが批判されていた点だ。

こちらの記事で、中島弁護士は、まず画風それ自体には著作権が無い点に触れている。
そして、「あくまで規約通りに利用する限り、法律上は問題のないサービスだと感じました。」と述べている。↓

しかし、柿沼さんの解説記事を読んだ限りでの私の理解によれば、仮にmimicに他人の絵を食わせて他人の作風を真似た絵を生成したとしても、法的には問題はないようだ。↓

つまり、mimicは炎上の元になった利用規約なんて、付ける必要さえなかったのだが、絵師の感情を守るため、ある意味サービスで用意した規約だったと言えるかもしれない。
そんなサービスで付けた規約を守る仕組みが無かったからといって叩かれるのは、mimic側にとってみれば心外だったかもしれない。
逆ギレして「そんなに言うんだったらこんな利用規約なんて消してやるよ!」という事だって可能だったはずだが、mimicはおとなしく撤退した。

そうこうしてる内に、今度はWaifu Diffusion(以下WD)とかいうのが出てきた。

これはStable Diffusionをファインチューニングして、日本のアニメ風の女の子キャラを上手く描けるように特化させたAIだ。
ファインチューニングというのはAIに追加学習させて、自分の好みに近い画像を生成させられるようにする技術だ。

それはいいのだが、このWDは事もあろうにDanbooruから画像を収集してきてAIを学習させたという。(ここでDanbooruのデータセットが公開されている)

Danbooruって何じゃ?というと、世界中のイラストを勝手に収集して転載している無断転載サイトであり、pixivやtwitterのイラストも大いに含まれている。↓

https://danbooru.donmai.us/

私は「こりゃあmimicの時みたいに炎上するかもな」と思ったが、今のところはそんな気配もなく、普通に「SDより上手く女の子を描いてくれるぞ!」みたいな感じで使われている。まあ私も使っているんだが。

さて、これらの件について私の思う所について書いておきたい。

まずハッキリさせておきたいのは、mimicは法的にはなんら問題が無かったという事だ。たとえ他人の絵を食わせたとしてもだ。

だからといって、「mimicを叩いてた人達は非常識!法律を知らんのか?」などと言いたいわけではない。
正直言って、mimicに対する世間の反応は妥当だったんじゃないかと思う。

たしかに、mimicは合法だったかもしれないが、だったらむしろ法律の方に問題があるのかもしれない。
法的には許されるからといって、感情的には許されないという事はあり得るだろう。

実は、日本の著作権法は2019年に改正され、AIの学習のために他人の絵を勝手に食わせてしまう行為が大幅に緩和されている。

進化する機械学習パラダイス ~改正著作権法が日本のAI開発をさらに加速する~

「mimicが合法だとしたら、まだ法律の整備が追い付いてないだけだ」という意見も見かけたが、むしろ法律の改正の結果、mimicのようなAIも合法になったと言えるかもしれない。
日本は世界的に見てもAI学習に対して相当甘い法律になっており、もはやAI学習パラダイスとさえ言える状態らしい。

他人のAさんの絵を模倣するために、AIにAさんの絵を食わせまくって、Aさんの画風そっくりの画像を生成しまくる…こんな事さえ許されている。
「そんな事が許されるなんてあり得ない!ただのパクりじゃんか!」という感情的な反応は、たしかに常識的に考えるとその通りで、むしろ法律の方がどうかしてるんじゃないか。

要するに、絵師の権利は犠牲にされたのだと思う。
日本はAI先進国になるために、AI学習し放題な法律に変えてしまったのだ。

たとえば、TPPでも食肉の関税は大幅に撤廃された。
これでは安い肉が大量に輸入されてしまい、国内の畜産農家は困ってしまう。
これは、畜産農家は犠牲にされたが、代わりに我々は肉を安く食べられて、トータルでは国益に適うと判断されたわけだ。

法律の正しさと論理の正しさは違う。そこには単にトレードオフがあるだけだ。
というわけで、mimicを叩く事は感情的には正しかったかもしれないとしたところで、次の疑問は、でもmimicが炎上するのに、MidjourneyやSDやWDが炎上しないのは何なの?という点だ。

mimicはサ終に追い込む事に成功したが、しかしSDだってファインチューニングすればmimicと同じような事は誰にでも出来てしまうのに、世間がそれを問題視する気配は見えない。

上で書いた通り、SDの学習データにはみんなが描いたイラストなどのヤバいデータが大量に含まれている。
SDはオープン志向だから学習データやアルゴリズムを全部公開してくれてるだけマシだ。DALL-EやMidjourneyはどんなデータで学習したのかかなり不透明である。

しかし、Midjourneyがあんだけリアルな悟空を描いてしまえる時点で、SDと同じくらい勝手に他人の絵とかを食わせまくってる事は明白だ。

WDについてはDanbooru画像を食わせているという、もはや露骨に見えてる地雷みたいなもんである。

さて、結局のところ、mimicが炎上してMidjourney、SD、WDが炎上しない理由とは何か?

どうやらそれは、“みんなよく分かってないから“という事らしい。

Midjourneyは海外の英語のサービスだから、みんな仕組みとかよく分からないまま、綺麗な絵がでておもろいからオモチャにしていた…という事だったのかもしれない。

SDやWDについても、「英語だからよく分からん」単にそれだけの理由で炎上を免れているのかもしれない…。

そんな中で、mimicだけは、日本のサービスだし、Webサイトも日本語だったし、どんなサービスなのか丁寧に説明してくれていた。だが、それが仇となって、むしろ画像AIの危険性が誰にでも分かりやすく理解できてしまい、正しく炎上した…という事かもしれない。

そんな実情だったとしても、このブログ記事を読んでくれたあなたには、MidjouneyやSDやWDのヤバさが正しく伝わったと思う。

mimicに怒るんだったら、他のAIにも今の内に正しく怒っておいた方がいいんじゃないだろうか。
なんだか分からないまま、全てがAIに支配されて手遅れになってしまう前に。

mimicは法的には合法だったが、そういう法律の楯があったとしても、みんなでキレまくって炎上させれば撤回させることができた。これは一つの成功体験だったと言える。

MidjourneyやSDやWDも法的には合法だ。
WDがDanbooruの画像を食わせてる件については、Danbooruがpixivとかから無断転載してる事自体は違法だと思うが、WDの作者がDanbooruの画像をAIに食わせる事自体は合法かもしれない。これも画像ロンダリングの一種かもしれない。

しかし、合法だろうがなんだろうが、mimicの時のようにみんなでキレまくって叩きまくれば他のAIも潰せるかもしれない。
例えば、反社会的勢力の人間は、法律的には勝てなくとも、ひたすらゴネまくったり暴力に訴える事で勝つという戦略を取ったりするらしい。

あるいは、真っ当に民主主義的な作法にのっとるなら、法律の方を変える事でAIを潰せるかもしれない。
その場合は、みんなで政治的に一致団結して、政治団体を組織して、地道にロビー活動を行って選挙で反AIの議員を当選させまくると言ったことが必要になるだろう。

ただし、注意しておくべき点として、仮に日本の法律を変えたとしても、それは日本の中でAI開発を防げるだけで、海外のAIについてはどうする事もできない。
著作権というのは、日本人なら日本の法律に基づいて、アメリカ人ならアメリカの法律に基づいて世界中の画像を扱えるらしい。日本の法律でAIの画像利用を禁止すれば、アメリカ人も日本の画像は使えなくなる…という事にはならないようだ。

終わり

こんな記事を書いておいてなんだが、私自身はアンチAIで結束して旗振り役をやるつもりは毛頭ない。
AIを潰したところで私は1円も儲からないし、儲からない事に対して責任を負うのは御免である。

私はどちらかというとMidjourneyやSDやWDの登場に興奮して喜んでる側の人間だ。
画像AIを活用すれば自作ゲームの素材なんかも簡単に作れるようになるし、AIが野放しで進化してってくれた方がトクだ。

モスターク氏は、SDを学習させるためのコストに60万ドルかかったらしい。
とは言え、世界中にSDを配布する事で生み出される莫大な価値に比べれば、60万ドルなんてタダみたいなもんだ。
その莫大な価値の内、せいぜい数%でもマネタイズできればそれだけで大儲けできるとモスターク氏は考えているのかもしれない。

だが、その莫大な価値の材料は、みんなが心を込めて描いてインターネットにアップロードしたイラストだったりするわけだ。

ハッキリ言って、これは見方によっては合法的なドロボウだと言える。
例えば、自分の自動車が、盗まれて、バラバラに分解されて、メルカリで売られちゃってる状況にも似てると言えるかもしれない。
こんな事を許していいのだろうか?

クリエイター達には、このような状況を正しく知って、正しく怒って、団結して、抵抗する権利があるハズだ。