こんにちは。海行です。

最近読んだ本の感想文を書きます。
本の内容というより、本を読んでる最中やその前後に私の中で沸き起こった想念について書く気がします。


中学生でもわかる経済学

マイナス金利に突入して世の中騒然としてる今日この頃ですが、この前何となく利子の出所について考えました。
(マイナス金利は銀行が日銀に預けているお金の一部の利息がマイナスになるという話なので我々には直接関係ないですが)

参考リンク:日銀のマイナス金利政策は「劇薬」なのか!?

何故銀行に預けた預金に利子が付くのかと言えば、銀行が預金を使って作った利益の分け前をもらってるという事になってます。
銀行は預かったお金を別の誰かに貸します。そして貸した相手からお金を返してもらえる権利(債権)を債券にしてまた誰かに売ります。
債券化して売り切った時点で貸したお金よりすこし多くのお金が増えてます。
まるで錬金術ですが、現実的に何が起きてるのかと言えば、いずれ払ってもらえる予定の借金の利息を債券を買った人に前払いしてもらってるって事ですね。

だから私はこれは未来からお金を盗んでるんじゃないか?と思い、以下のように図式化してみました。

利子の発生

↑この図の真偽はよくわかりません。経済に詳しい方とお話しする機会があったら訊いてみたいと思います。

さて、図を書いた時点では私は中央銀行は金塊を担保にして紙幣を発行してると考えていました。
しかしちゃんと調べてみると、中央銀行はたしかに金塊も持っていますが、所持金塊の価値より断然多くの紙幣を発行しているとの事。

現物の担保がない紙幣って実際ただの紙切れでしかなく、我々がそれをお金だって信じさせられてるだけではないのでしょうか?
いえ、実際には単なる紙切れとは少し違って、政府が政府自身の信用において中央銀行に紙幣を発行させているようです。

つまり、お金は”お金”と書きはしますが金塊の金と違って、信用を物体化した物と言えそうです。
お金を持っている人は政府によって信用を保証されているという事です。

じゃあお金を信用と読み替えると、お金持ちは信用持ちだし、お金が無い人は信用が無いという事になるのでしょうか。
見方を変えると、孤独なお金持ちとお金は無いけど周りからの信頼が厚い人というのはまったく違う世界の人に見えますが、本質的には同じような物なのかも。

本についてまったく触れてないですね…
平易に経済の話をしてくれて読みやすい本でした。


禅マインド・ビギナーズマインド

以前に講談社学術文庫のバウッダという本などを読みましたが、釈迦が説いたオリジナルの仏教は、徹底的な観察と思考で成り立っている明晰な理論で、誰が聞いても納得するような物だったと思います。

釈迦の死後、長い年月の間に仏教は分派を繰り返し、やがて大乗の諸宗派が生まれたという事です。

禅はかなり中国の思想が取り込まれていて、AかBか、という単純な二元論を超越した世界が広がってます。
(余談ですが我々が本能的に二元論に陥る理由、二つの道があってどちらが正解か知りたがるのは原始時代に生命の危機に見舞われた瞬間に素早く正しい判断を求められた事の名残だったりして)

私はあまり理詰めで考えるのは得意ではないのですが、どんな事でも理屈を突き詰めていくと「死ぬしかない」みたいなろくでもない結論に導かれがちな気がします。
例えばマミさんは「ソウルジェムが魔女を生むなら→みんな死ぬしかないじゃない」と一瞬で理詰めで突き詰めて考えた結果、思い詰めて心中を図ろうとしました。
釈迦の説く仏教も理屈を詰めた結果、死について見つめる部分が多い印象です。

例えば人間が牛や豚などの動物を食べる事の是非を考えた時に、動物がかわいそうだからじゃあベジタリアンになればいいのかというと、肉抜きで栄養を補おうとすると食物生産効率がかなり悪化するであるとか、野菜の生産時にも農薬で害虫を殺すが、虫の犠牲はどう考えるのか?
人間は生きてる限り他の生き物を犠牲にするしかないのならば、みんな死ぬしかないじゃない!
そうでしょうか?
(そういえばキュゥべえも人間と家畜の共栄関係について述べてますね)

我々は理屈はともかくまず生きねばならないのではないでしょうか。
多少そこに矛盾を孕んだとしても。

理屈だけで片づけられない事も多いんだなと思ったときに、二元論を超える禅の教えには共感するところがありました。

この禅マインド・ビギナーズマインドは、鈴木俊隆という方の禅の説話を文字に起こした本です。
スティーブ・ジョブズの愛読書だったそうです。

鈴木俊隆という人はアメリカに禅を伝えた人で、だからこの本は禅の本と言ってもまずアメリカで英語で出版した物を邦訳して逆輸入したような形になってます。
間接的な気がしますが、かえって平易な語り口で禅の思想が語られて分かりやすいような気もします。

iPhoneは日本で非常に人気がありますが、ジョブズはiPhoneに禅の思想を込めたのかもしれませんね。
日本の思想が海外に輸入されてアレンジされた物と言うのは得てして惹きつけられる物が多い気がします。
絵画だとゴッホやクリムトなど。

さて、本の前書きでも述べられてる事ですが、二元論を超えた禅の思想を本にした事で、本の中で論理的な矛盾があったりします。
それで頭で納得できない時はどうすればいいのか?
座禅しろと書かれています。
論理より実践を求められるのです。

例えば四弘誓願について、「仏教の教えは無限だけどそれを学びきります」といったような仏教徒の誓いについて述べられてますが、理屈で言ったら無限だったら学びきれないわけです。
しかし、「できるできないじゃなくてやるんだよ」(仕事で人からこんな風に無理強いされたら腹立ちそうですが)というような、理屈を超えた精神がそこにある。

悟りを得るために座禅するというような、目的と手段を分けて、目的のために何かをするみたいに考えるのは間違いだ。
実践せよ、実践自体が悟りだと。
何だか書いててよくわからなくなってきましたが、そういうような事なんです。

別の説話では「片手の叩く音を聞く」話が述べられています。
(ちなみにこの禅公案はサリンジャーのナイン・ストーリーズの冒頭でも引用されてます)
手は両手じゃないと叩けないですよね。
しかし片手でも音は鳴るのだと。ただし聴こうとしなければの話です。

聴こうとしなければ、音が聴こえないという事は起きないので、鳴ってます。
見ようとしなければ、いないという事は起きないので、います。
誰かに見られていなければ、そこから隠れる事はできません。

なんかまあ、そういう世界なんです。


みんなのイラスト教室

イラストレーターの中村佑介さんがイラストを募集して、送られてきたイラストを添削するという本です。
イラストを送ってくれた人を生徒に見立てて、中村さんがイラスト教室の先生という体になってます。

中村さんが生徒のイラストに手を入れると見違えてメッチャ良くなるので、まるで手品みたいですが、どう修正したか、何故こうしたかは全て文章で記載されている訳で、種は無いという。
私はイラストの専門的な教育は受けた事が無いので、このように方法論を解説されると目からウロコが落ちっぱなしでした。

この本で特徴的だと思ったのは、生徒の画力を問題にした事は一度も無いという所です。
例えばここのデッサンが甘いとか、そういう所を添削するわけではないのです。
あくまで生徒のスキルに合わせて、今できる範囲での修正案を提示しており、それでも工夫次第で断然良くなるのが目に見えてわかります。
(ただ画力は問題ではないのかというと、商業イラストの絵が上手いのは服が破れてないというのと同じで当然だとは述べられてます)

画力はすぐにどうにか出来るものではないですが、商品を目指すなら手抜きはいけないという点は強調されてます。
イラストにかけられた手間暇に対してお金を払いたくなるという側面も大きいとの事です。

また、自己表現としてのイラストと製品としてのイラストについても述べられています。
商業イラストは、描き手が何を書きたいかと言うのはそもそも問題ではなく、製品としての性能が求められます。
その絵を見る人にとって、いかにわかりやすいか、クライアントにとっていかに役に立つか、それだけが問題なのです。
私は仕事で絵を描いた事はなく、趣味だけですが、絵を見た人の気持ちを考えて描くという意識は持ってみたいと思いました。
漫画を描く場合でもその製品としての性能、読みやすさや価値の付与については意識すべきかもしれません。

しかしこの本は生徒の絵を第三者の中村さんが添削する形ですが、自分で絵を描いてる時は全然客観的になれない(描いてる途中は世界で一番凄い絵を描いてる気分)ので、理屈でここをもっとこうした方が…と考えられるくらい客観的になる頃にはすでに描き上がって1週間後という感じなのですが、どうすればいいんでしょう。
中村さんは本の中でラフ提出と最終版のビフォーアフターを載せてますが、ラフの段階でほとんど完成されたイラストみたいに仕上げていて、最終版ではイチから描き直していました。
一度描き上げてしばらく置いて冷静になってからまた描き直せばいいんだよというメッセージのようです。
さすがはプロですね。

この本では中村さんの優しい語り口が印象的で、人柄が伝わってくるようです。870円とこの手の本にしてはかなり安いです。
後書きで述べられていますが自分の印税を削ってまで価格を抑えたとの事で、私は本当に感心してしまいました。
イラストレーターの仕事に興味ある方には是非一度読んでみて欲しいオススメの本です!

余談ですが、中村さんはアジカンのCDジャケットのイラストペン入れだけでコピックマルチライナーを使って丸三日(40時間)かかったそうです。
もし中村さんみたいなクオリティで漫画を描こうとしたら1コマで数十時間かかってしまうって事ですね…
やはりその辺はイラストと漫画では方法論が違ってくる所だと思います。(そういえばDr.スランプを描いていた頃の鳥山明先生のスケジュールも目が開いてる間は漫画を描きっぱなしみたいな大変な事になっていたそうです。)

ペン入れで3日かかるなら、ラフ、下書き、色塗り、先方との打ち合わせなどもろもろを合わせると制作に二週間くらいはかかりそうですが、ギャラはどれくらいなのかな?と思ってググッてみたところ、

う~ん…なかなか大変そうな事がうかがえますね…