アンダーテールについては前の記事でDV呼ばわりしてしまってますが、今回は違った切り口で記事を書きます。

最近はゲームとは”デザインされた体験”だという説を主張しているわけですが、ではゲームに登場するキャラクターについてはどう考えればいいのでしょうか。

ゲームじゃ無くて、マンガの場合は、キャラクターは”アクションとリアクションの積み重ね”によって表現されるという話を以前に書きました。

しかし、この”アクションとリアクション”の話はゲームでもそのまま使えるとは限りません。

たとえば、主人公キャラとヒロインが、マンガみたいにコントみたいなやり取りを始めたとします。
そうすると、プレイヤーは自分の分身のハズの主人公が勝手にコント始める感じになるので、置いてけぼりにされてるような感覚になります。
マンガやアニメだと読者(視聴者)は観客に過ぎないので、キャラ同士がコントやってても何ら問題ありませんが、ゲームだとプレイヤーは自分が舞台の主役のつもりでいるので、状況が全く異なるので同じ方法は使えないという事です。

勝手にコントするのが問題なら、プレイヤー(主人公)が実際にヒロインに対してアクションして、それに対してヒロインがリアクションしてくれるというのはどうでしょうか?
これは、選択式コマンドアドベンチャーゲームのようにプレイヤーに可能なコマンドが極めて限られてるゲームなら上手く行くかもしれません。
ですが、VRゲームのようにプレイヤーが自由自在に働きかけられるゲームだと、できる事が多すぎて、全てのパターンに対してヒロインに適切なリアクションを持たせる事が困難です。期待した通りの反応が返ってこないとプレイヤーはシラケてしまいます。

”アクションとリアクション”以外の、ゲームならではの方法でキャラクターを表現する事はできないのでしょうか?

ゲームは”体験”なのですから、だったらキャラクターも”体験”させてみるのはどうでしょうか?

”キャラクターを体験させる”ってどういうこっちゃ?というと、すぐに思いつく例としては、たとえばRPGの負けイベントです。
ゲームの序盤で強力なボスが現れて、圧倒的なパワーの前に敗北してしまします。
これによって、敵の強さを身に染みて”体験”させられます。マンガのようにアクションとリアクションを重ねるまでも無く、一発で理解させられます。

個人的にこのパターンで印象に残っているのは、FF9のベアトリクスです。
その圧倒的な強さを前にしてなす術がありませんでした。それだけに、その後のイベントでパーティに加入してプレイアブルになった時はテンションが上がりましたね。

というわけで、負けイベントは有効な手法ですが、それだけに使い古されてしまってます。
他の方法は?

というわけでアンダーテールの話に移りますが、アンダーテールでは、独創的な3つの手法でプレイヤーにキャラクターを”体験”させています。
これにより、キャラクターの魅力をこれでもかというくらい”分からせ”られますので、アンテのキャラ人気はすさまじい事になってます。

”弾幕”でキャラクターを体験させる

トビー氏は、アンテを作る際に、今さら普通のRPGの戦闘だと退屈だよなあ?と考えました。

そこで作られたのが、弾幕シューティングみたいなアンテの戦闘システムです。
これにより、上手くかわせばノーダメージ、下手だと大ダメージを受けるユニークな戦闘システムができあがりました。

さらに、その弾幕に敵キャラクターの個性が反映されているので、プレイヤーはキャラクターを弾幕という形で”体験”します
敵に攻撃の意思が無い時は、弾幕も当てる気がない感じになるので、言葉を交わさなくとも弾幕を見るだけで相手の気持ちが伝わったりします。

おそらくトビー氏は、東方プロジェクトに着想を得てこのシステムを作ったのだと思います。

東方でも、弾幕(スペルカード)によってキャラクターの個性が表現されています。
というか、実際には弾幕に合わせてキャラクターがデザインされるという流れらしいですが。

さらにアンテでは、ボスキャラのような強力な個性を持ったキャラについては、その攻撃方法にも強力な個性を持たせています。

たとえば、パピルス戦ではマリオみたいなジャンプアクションになってしまいます。
アンダイン戦では音ゲーみたいになります。
メタトン戦では実際にこっちが弾を撃てるシューティング要素が入ります。
サンズ戦は言うまでもありません。

というわけで、アンテのキャラクターの体験のさせ方の一つ目は、”弾幕”でした。

”パズル”でキャラクターを体験させる

ゲームのゲーム性って一言で言えばなんだ?というと、「成功と失敗があるチャレンジ」だと言えるでしょう。

ホラーゲームや脱出ゲームではマップ内に”パズル”が散りばめられています。
パズルは成功と失敗があるチャレンジであり、ゲームの重要な要素の一つでしょう。

アンテにもゲーム全体にパズルが散りばめられています。
しかし、アンテが斬新だったのは、それらのパズルがキャラクターによって作られたものだという事です。
つまり、パズルにキャラクターの個性が反映されているので、主人公はパズルをプレイする事で、キャラクターを体験することができます。

それだけにとどまらず、たとえばトリエルはトゲだらけの危険なパズルを、「これは危ないから」と言ってプレイヤーに解かせずに勝手に引率して解いてしまいます。

その次のパズルも、わざわざ正解のスイッチに「このスイッチを押すのよ」と注意書きしていて、むしろプレイヤーがパズルを解くチャレンジを邪魔してきます。

これだけで、トリエルの過保護なお母さんキャラクターをこれでもかというくらい理解させられます。

スノーウィーでは、パピルスやサンズが作ったパズルをプレイヤーは体験します。
ここでは二人は、マンガにおける”アクションとリアクション”みたいな感じで延々と二人でコントをやってます。

上述したように、普通ならプレイヤーが置いてけぼりになりがちなシーンですが、しかしあいだあいだにパズルをプレイするシーンが挟まれます。
これにより、プレイヤーは二人のコントに参加して、三人でコントを完成させることができます。
プレイヤーは単にパズルをプレイしているだけで、一言も喋ったりしてないにもかかわらず、その場のワイワイしてる感じに一体感を感じる事ができます。

これに似た例としては、「殺戮の天使」というホラーゲームがあります。
このゲームでは、各フロアごとに断罪人という敵キャラがいます。
断罪人は医者だったり墓を作る人だったり処刑人だったりしますが、面白いのはマップも断罪人に合わせた趣向の作りになっている事です。
これにより、マップを歩き回ってるだけでそれぞれの断罪人のキャラクターを体験できます。

”電話”でキャラクターを体験させる

主人公は電話を使ってキャラクターと通話できます。

まあ通話自体は”成功と失敗があるチャレンジ”ではないのでゲーム性は特に無いですが、この小道具ひとつでキャラクターが表現されまくっていて面白いです。

アンテは基本的に一人旅なので、冒険中に割とさびしくなったりするかもしれませんが、パピルスに電話をかければアレコレコメントしてくれるのでさびしくありません。

もしもこれがパピルスがパーティに加入した同行者で、新しい場所に行くたびに勝手にアレコレ喋るんだとしたら、ちょっとウザかったかもしれません。
あくまでこちらから電話をかけてパピルスが応答するという流れで、プレイヤーからアクションを働きかけるのが重要です。

この、「相手が勝手に喋り出すとウザい」という話を逆手に取っているキャラがアルフィーです。
アルフィーはこちらの電話番号を知ってますが、こちらは向こうの番号を知りません。

ですからこちらから電話はかけれなくて、向こうから一方的にかけてきます。
それでアルフィーはSNSを更新しまくったり鬼電してきたりして、それが笑ってしまうくらいウザくてアルフィーのキャラクターを強力に体験させられます。

それから、遺跡を出た後はトリエルに電話をかけても一切応じてくれません。他のキャラとは対照的です。
これにより、離別の悲しさがかきたてられて「またトリエルに会いたいなあ」という気持ちにさせられます。

まとめ

というわけで、アンダーテールでは、プレイヤーにキャラクターを体験させるために、”弾幕”、”パズル”、”電話”の3つの要素を活用しているという話でした。

これらの工夫によって、マンガなどでのセオリーとは異なるゲームならではの方法で、キャラクターを強力に印象付ける事に成功しています。

とは言え、この方法には一つの大きな問題をはらんでいます。

弾幕やパズルでキャラクターを表現する…それはいいんですが、そもそも弾幕やパズルは主人公を妨害したり、あるいは殺したりするために用意されているモノです。
そんな弾幕やパズルを作ったキャラクター達は主人公の敵であって、どうしてそんな奴らをプレイヤーが好きになるんだ?という話です。

この本末転倒な話を、トビー氏はどうにかするためにアレコレ工夫していて、苦労が偲ばれます。

トリエルは、最初の時点ではパズルで主人公を苦しめるつもりは全然無いというアピールをしてきます。その後、「待っていてね」という言いつけをプレイヤーが破ったせいでパズルを解いていくハメになるので、自業自得…という体になってます。

パピルスも、結局は直接主人公を苦しめるようなパズルはほぼ出してきませんでした。

ウォーターフェルでは普通にパズルを解きますが、まあここでは別にパズルの作者はアンダインではありません。

ホットランドではアルフィーの作ったパズルを解いていきますが、しかしそのアルフィー自らがパズルを解くのを助けてくれるという奇妙な展開に陥ります。

そんなわけで、アンテでは敵キャラがパズルを用意しているにもかかわらず、それらのキャラはプレイヤーを害しようとしているわけでは無いアピールをしてくるという奇妙な状況になってます。

ですから、プレイヤーとしては、「このゲーム、パズルをやらせる気があるんだかないんだか…」みたいな不思議な感覚になります。

というわけで、キャラクターに”体験”を用意させる事で、プレイヤーがキャラクターを体験できるようになりますが、それだとそのキャラは”主人公を害しようとしてる敵”になってしまうので、そんなキャラを好きにさせるためにはかなりねじくれた流れを用意する必要があるようだと分かりました。