VRでNPCを登場させる事の問題点
このブログでは何度も書いてますが、私はかつてVRで理想のキャラクターを表示したら最高の体験になると信じてましたが、実際やってみたら心を持たない単なる人形に過ぎなくて、心底ガッカリしました。
ICOでヨルダと一緒に冒険する方がよっぽど最高の体験です。
一見すると、普通のゲームよりVRの方が没入感が高そうに思えますが、何が問題だったかと言うと、プレイヤーが自由にアクション出来すぎる点が問題でした。
VRではプレイヤーは好き勝手に歩き回って手を使って何でも触れます。
しかし、プレイヤーの無限のアクションに対してNPCのキャラクターが返せる反応は非常に限定されています。プログラミングで定義したリアクションしか返せないからです。
VRは自由に何でもアクションができる分、それに対してリアクションが少ないとガッカリが大きくなります。
ですからVRは普通のゲームに比べてNPCに対して相対的にガッカリ度が大きくなるのでかえって良くないという事になります。
離散的なNPCと連続的な人間
さて、このようにNPCが限られたパターンのリアクションしかできないのを、”離散的”であると呼ぶことにしましょう。
それに対して、VRプレイヤーが自由に無限なパターンでアクション出来るのは”連続的”と呼べるでしょう。
つまり、この話は離散的にしかリアクションできないNPCに対してあまりにも連続的にアクションできてしまうプレイヤーの非対称性が問題だと言えます。
相手が連続的なリアクションを返してくれるのは人間らしさを感じるための重要なファクターだと思います。
VRでNPCを表示するとガッカリするのに対して、VRChatでは対人でコミュニケーションを行います。
お互いが人間なら、どちらも連続的なアクションとリアクションが可能なので、非対称性の問題は解決します。
これこそがVRChatがVRのキラーコンテンツみたくなってる理由でしょう。
VRChatのように、お互いが連続的になる事で非対称性を解決する方法に対して、それとは逆の考え方もあります。
伊集院光氏がVRを体験した時の事を語った話です↓
伊集院光、VR技術の進歩で逆に高まる不満を逆手にとる提案「体が自由にならない状況を最初に作ればどうか」
伊集院氏は、「自分だったらVR使ってエッチビデオみたいなコンテンツ作るだろうけど、しかしVRはこっちからおっぱい揉んだりできないから、じゃあいっそプレイヤーを最初に椅子に縛り付けてしまえば違和感は消せるかも」みたいな事を言いました。
つまり、プレイヤーの自由なアクションを完全に封じ込んで、プレイヤーも相手(NPC)もお互いが離散的になる事で非対称性を解決するという方法です。
ディズニーランドの着ぐるみとアニマトロニクスの違い
ディズニーランドには、人間が演じるプリンセスや着ぐるみのキャラクターもいますし、一方でロボットのアニマトロニクスもいます。
ゲームにおける人間とNPCの違いは、ディズニーランドにおける着ぐるみとアニマトロニクスの違いみたいなもんかもしれません。
プリンセスや着ぐるみは来園したお客さんと触れ合って相互作用しますが、それは連続的なアクション、リアクションが可能な人間ならではです。
アニマトロニクスのキャラクターは見た目は原作アニメーションにより忠実ですが、連続的なアクション、リアクションはできません。だからお客さんはアニマトロニクスを離れた所から見るだけで、こちらから働きかける事はできません。(ディズニーランドほぼ行った事無いから推測で言ってますが)
まあその分、アニマトロニクスは何百回同じ演技させても文句言わないし人件費もかからないというメリットはあるでしょう。
プレイヤーのアクションを離散化する
VRでは、プレイヤーはあまりにも自由に連続的なアクションが可能なせいで、「キャラのおっぱい触ったらどうなるかな?」とか「髪を触ったらどうなるかな?」とかNPCに対して必要以上にアレコレ期待を抱いて試してしまって、思ったような反応が無くて勝手にガッカリしてしまうのが問題でした。
要するに、VRはプレイヤーに対してむやみにアフォーダンス(○○できるかな?)を与えてしまうのが問題です。
VRほどでは無いですが、普通の3Dゲームでもプレイヤーはそれなりに連続的なアクションが可能だったりして、NPCをどついたり壺を投げつけたりしてみても、無反応だったりしてつまらんな~ただの人形だな~とか思いがちです。
それに対して、例えばアンダーテールのバトルでは、プレイヤーはモンスターに対して決められたコマンドの”こうどう”でしかアクション出来ません。
つまり、メッチャ離散的です。
この場合、ワクワクはあまり無いかもですが、少なくともプレイヤーは余計なアフォーダンスを抱きません。表示されてるコマンドしかできないんだな~と分かり切ってます。余計な期待を抱いてガッカリするハメにはなりません。
キャラのグラフィックはアンダーテールより3Dゲーム(たとえばキングダムハーツ3)の方がリアルかもしれませんが、しかしアンダーテールのキャラに対しては、余計な期待を抱かない分、本物のキャラじゃなくて人形じゃん…とガッカリする事も少ないので、むしろ相対的にアンダーテールのキャラの方が好きになったりしがちです。
プレイヤーに可能なアクションを離散化する事で、むしろその方がNPCを好きになってもらう事が可能かもしれないという事です。
キャラクターの見た目をリアルにするほど、当然プレイヤーはリアクションの連続性もメッチャ高いんだろうね?と期待が爆上がりしてしまうので、そんなキャラのリアクションが人形みたいに離散的だった時のガッカリも一段と深くなって、それはむしろグラがチープなゲームより面白くなくなる事に繋がるかもしれません。
「でも頑張ればガッカリしないくらいに連続的なリアクションが返せるNPCも作れるんじゃね?」という意見もあるかもしれませんが、今のところそんな事は不可能です。
非対称性を解決するんだったら、NPCに中の人を用意するか、(つまりVRChatとかvTuberの方向性)あるいはプレイヤーのアクションを十分に離散化するかのどちらかが現実的でしょう。
マジックサークル
さて、プレイヤーとNPCの非対称性を解決する手っ取り早い方法は、プレイヤーの可能なアクションを離散化する事だという事が分かってきました。
でも、具体的にどうすればアクションを離散化できるのでしょうか?
一つの方法としては、アンダーテールがやってるみたいに、古き良きコマンドRPGみたいなゲームにすれば、プレイヤーの可能なアクションは「はなす」とか「しらべる」とかの少数のコマンドに制限されるので、NPCが期待通りリアクションしてくれない度合いは抑えられます(まあ何回話しかけても同じ事しか言わないとやっぱり人形になっちゃったって感じするけど、それはそういうもんだからそこまでガッカリはされないでしょう)
まあ別の方法も考えてみましょう。
ところで、「ルールズオブプレイ」というゲーム研究の書籍では、「マジックサークル」という概念が紹介されています。
マジックサークルの概要はこちらの記事あたりを見てください↓
【ドロッセルマイヤーズ渡辺】プレイヤーは魔法使いであるという話
ゲームを遊ぶために集まった人達は、ある種の”場”、マジックサークルを形成していて、マジックサークル内の人達はゲームを維持するためにルールを守って遊ぼうと努力する…みたいな話です。
例えばサッカーで遊んでる人達は、みんなサッカーのルールを守ってプレイします。
ルールを無視してサッカーボールを手で掴んで抱え込んだりすると、そういう不規則な行動はNPCにはできない、いかにも人間らしい連続的な行動って感じはしますが、しかし普通はそんな事するヤツはいません。ゲームがメチャクチャになるからです。
このように、マジックサークルの中でゲームを遊んでいる人間は、連続的というよりはルールに沿った離散的なアクション、リアクションを行います。
例えば、コンピュータ上でオセロのゲームで遊んでいる時、対戦相手が人間だろうがAIだろうが、見分けるのは難しいでしょう。オセロでは人間もAIもルールに沿った離散的なアクション(一手を打つ)しかできないからです。
という事は、マジックサークルの中ではNPCが離散化されたアクションをしていても、あまり人間と見分けが付かず、不自然にはなりません。
つまり、プレイヤーはゲームの中のNPCと、何らかのゲーム(ゲーム内ゲーム)を遊んでれば、プレイヤーはそのNPCに対して「人形じゃん」とガッカリしなくて済みます。
同時に、プレイヤー自身もマジックサークルの中ではルールを守って遊ぼうと努力するので、あんまり不規則なアクションはしようとせず、ルールに沿った離散的なアクションをしてくれる事が期待できます。
これが、プレイヤーとNPCでゲームで遊ばせる事で、お互いが平等に離散化されたアクションに制限することができるという方法です。
これだけでもNPCのプレゼンスはかなり高まると思いますが、まだ少し問題があります。
キャラクター(NPC)の魅力はその個性によるところが大きいですが、ゲームのプレイングだけで個性を出すのは難しいという問題があります。
例えばオセロで遊んでても、相手のオセロの手から、その人の性格を想像するのは難しいでしょう。まあよっぽど下手だったら初心者なのかな…とか頭悪いのかな…くらいは思うかもしれませんが。
ゲームプレイだけでは上手いか下手かくらいの個性しか出せないというわけです。
NPCにゲームマスターをさせよう
だったらどうすればNPCの個性を見せられるんだよ?という話になります。
ここでちょっとInscryptionの話(ネタバレあり)になりますが、Inscryptionでは主人公はNPCのレシーと一緒にボドゲで遊びます。
そのボドゲはレシーが作ったゲームで、レシーがゲームマスターとして進行してくれます。
とあるInscryptionの実況プレイ動画を観てたんですが、その人は何週もレシーのボドゲで一緒に遊んでる内に、レシーの好感度が爆上がりしてるようでした。二人で一緒にボドゲという共同作業を繰り返して遊んでいる内に、友達みたいに思うようになってしまったようです。
これだ!
NPCにゲームマスターをやらせれば、そのゲーム自体にNPCの個性が滲み出ますから、プレイヤーはそのゲームを遊んでるだけでNPCの個性をよ~く体験する事ができるようになります。
以前、アンダーテールがいかにしてプレイヤーにキャラクターを体験させているかを記事に書きましたが、あれも考えてみればアンテのキャラはゲームマスター的だと言えるかもしれません。
というのもアンテのキャラはプレイヤーのために弾幕やパズルを用意して遊ばせてくれる存在だからです。それらの弾幕やパズルにキャラの個性が出まくってるという話でした。
これこそ、今考えられる限り、プレイヤーにNPCの事を好きになってもらう一番鉄板な方法かもしれません。
まとめ
今回の記事では始めに、プレイヤーのアクションの連続性が高いゲーム…特にVRでは、NPCの離散的なリアクションとの非対称性のせいでプレイヤーはNPCが本物のキャラでなく、タダの人形に見えてガッカリしてしまうという問題提起をしました。
VRChatではNPCではなくアバターという着ぐるみを着た人間同士でコミュニケーションする事で、お互いのアクションが連続的になるので、非対称性は解決します。
しかし、人間ではなくあくまでNPCを使いつつ非対称性を解決できる別の方法として、NPCとプレイヤーがゲーム内ゲームで遊べば、そのマジックサークルの中では人間だろうがNPCだろうがお互いルールに沿った離散化されたアクションしかできないので、違和感が起きません。
一方、オセロとかのいわゆるゲームは、そのゲームプレイから相手の個性を感じるのが難しく、NPCの個性を伝えにくい問題がありました。
ですから、Inscryptionのように、NPCにゲームを作らせてそのゲームマスターをさせれば、そのゲーム内ゲームをやってるだけで、プレイヤーはNPCの個性をこれでもかというくらい体験できる事になります。
私はゲームを遊んでてNPCが好きになっちゃうメカニズム(そしてVRにNPC出すとガッカリするメカニズム)にずっと興味がありつつもその正体は謎に包まれてましたが、もしかすると今回割と答えに近づけたのかもしれません。