前回notionに書いた記事は少しとりとめが無かったような気がしたので、もう一度あらためてマスコットホラーゲームが何故優れているのか?についてまとめておきたい。
23/10/20 ちいかわ、海外インディーアニメ、マスコットホラー
まず、私はここ数年、ゲームデザインについて書籍などで勉強した結果、体験としてのゲームに注目している。
それで、体験としてのゲームとは、突き詰めるとディズニーのライドとか、お化け屋敷みたいなもんになるという記事も以前に書いた。
とどのつまり、ホラーゲームは体験としてのゲームの究極系だと言ってしまえるかもしれない。
ガーデンオブバンバンは敵キャラのグラがチープだったりして、バカにされがちだが、実はかなり体験としてのゲームデザインやナラティブのノウハウが詰め込まれている事に気付いているだろうか。
例えばプレイヤーに映像を見せる必要がある時は、旧来のゲームではいわゆるムービーシーンに切り替わって操作不能になりがちだ。これではプレイヤーの体験は能動的なゲームプレイからムービー観るだけの受動的な視聴体験に引きずり降ろされてしまって良くない。
一方、ガーデンオブバンバンではビデオテープをビデオデッキに挿入してゲーム内のテレビで映像を見る感じになる。このようにする事でプレイヤーのゲーム操作を止めないで済む。プレイヤーはしっかり最後まで映像を見る事もできるし、途中で観るのやめて先に進む事もできる。
また、マスコットキャラとの会話シーンでもプレイヤーの操作を止めない。プレイヤーは話しかけるマスコットを無視してあらぬ方へ行っても構わない。
ゲームナラティブのテクニックの一つに、環境ストーリーテリングがある。
この場合、事件はプレイヤーの目の前で起きるというより、すでに事件が起きた後のマップにプレイヤーがやって来て、探索する感じになる。
そして、環境の状態や、拾ったジャーナルに書かれてる手がかりを元に、そこでどんな事件が起きたのかプレイヤーは能動的に推理する事ができる。たとえば床に血痕が残っていれば、これは誰の血だろうか?とかプレイヤーは想像する。
もしもこれが、事件が起きた後ではなく、プレイヤーの目の前で今この場で殺人が起きてはいけないのか?というと、そうしてしまうとプレイヤーは自分がその場にいるのに殺人を食い止める事ができないのが理不尽に感じてストレスになってしまう。例えばFF7ではクラウドの目の前でエアリスが殺されてしまう。なんでクラウドはエアリスを助けねえんだよ! そんなんだから、基本的にプレイヤーが介入したいのにできない出来事は目の前で起こさない方がいい。
ホラーゲームでは、ホラーな体験自体は目の前で起きるのだが、そんな状況を引き起こした原因の事件は過去に起きており、手がかりを元に真相に迫るみたいなものが多い。
そんな感じで、インディーホラーゲームはなにげに高度な体験ゲームデザインが駆使されている。
ちなみにだが、体験としてのゲームデザインは、いわゆる”ゲーム性”とは関係ない点に注意して欲しい。私はゲーム性とは”成功と失敗があるチャレンジ”だと思ってる。例えば音ゲーやシューティングゲームはゲーム性が高い。
体験ゲームは別にそのようなゲーム性が無くても成立する。
ここでいうような体験ゲームデザインは、小説、漫画、アニメ、映画とはまったく違う方法でストーリーを効果的に伝える方法のようなものである。
ちなみに私はチャレンジ性のあるゲームは一人で作る事は不可能に近いと思ってる。なぜならチャレンジには緻密なバランス調整が必要になる。みんながプレイして納得できる難易度を決定するには、自分だけの感覚では決められない。大勢のテストプレイヤーに遊んでもらって、そのプレイを観察して調整を繰り返す必要がある。なかなか大変だが、逆に言えば”チャレンジ性が無い体験に全振りゲーム”ならば、無論テストプレイは依然として重要であるものの、微妙なバランスどうのこうのを気にしなくてよくなるかもしれない。
今までのホラーゲームの問題点
そんな風に体験として優れていたホラーゲームだが、今までのホラーゲーム、特にインディーホラーゲームは多くの問題を抱えていた。
ハッキリ言ってホラーゲームは全然売れなかったのだ。
何故なら、ホラーゲームを遊びたい人がほぼいないからである。ホラーゲームは娯楽としては恐ろしすぎる。
例えば、洒落怖なんかの怖い話だって、十分に怖すぎる。それでも怖い話は他人の体験談を見聞きするにすぎない。一方、ホラーゲームは自分自身が恐怖を体験するハメになる。恐怖を味わうためにお金まで払う人がどれだけいるのか?
さらに残酷な事に、時代はホラーゲームの売り上げ減少に拍車をかける状況に突入していく。
Youtubeとかでのゲーム実況の隆盛である。
キヨ氏やレトルト氏などのホラーゲーム実況はメッチャ面白い。ピーナッツくんがVRホラーゲーム実況で絶叫してるのも笑える。vTuber達もノルマであるかのようにこぞってホラーゲームを実況している。海外で言えばホラーゲーム実況してたMarkiplier氏はチャンネル登録数が3560万人もいる。
つまり、ホラーゲームは売れないけど、ホラーゲームの実況動画は世界的にメチャメチャ大人気なのである。私はこれこそホラーゲームが体験として優れてる証拠だと思う。
何故、怖すぎてプレイしたくないホラーゲームが実況動画になると大人気になるのか?それは自分じゃなくて他人が恐怖してるのを見る分にはメチャメチャおもろいからである。
「だったらホラーゲームじゃなくてホラー映画観ればいいんじゃね?」と思うかもしれない。もちろんホラー映画でもいいんだが、ホラーゲームの方が優位な点がいくつかある。
まずホラー映画はYoutubeで観れない。私はアニメのリアクション動画とか結構好きだが、こういうリアクション動画ではあんまチャンネルが大人気になった話を聞いた事が無い。というのも、アニメ実況といってもアニメ本編を流したら著作権侵害になるので流せない。だからホラー映画実況動画なんかもなかにはあるのかもしれないが、イマイチ人気が出なさそう。一方、ゲーム実況ではゲーム本編を垂れ流せる。ゲームだってアニメや映画と同様に、本編垂れ流しは著作権侵害なハズだが、なんとなくゲームは基本的に黙認される(もちろん権利者削除する会社もあるし、配信ガイドラインを出すところもある)流れが形成されている。
だから、ホラー映画はお金払わないと見れないが、一方でホラゲ実況は無料で楽しめるという点もあるだろう。さらに、キッズ達はそもそも年齢制限などでホラー映画にアクセスする手段が無いかもしれないが、ホラゲ実況なら観てしまえる。
まあ、タダだからホラゲ実況が人気出たのかというと、それだけではない。ゲームがスゴイのは、プレイヤーが千人いれば千通りのそれぞれユニークなプレイが生まれる点だ。
アニメだと、一本の作品はあくまで一本の動画コンテンツでしかない。しかし、ゲーム実況者が千人いれば、そこから千本のユニークな動画コンテンツが生まれるのだ。動画が大量に生まれれば、当然Youtubeのレコメンド欄に出てくる確率も上がってバイラルしやすくなる。
さらに言えば、映画は当然ながら100%純粋なフィクションだが、ゲーム実況は50%がフィクションで50%は現実だと言える。ゲーム自体はもちろん完全なフィクションに過ぎないが、ゲーム実況者のゲームプレイは現実で起きている事である。ホラー映画の俳優の恐怖は演技だが、実況者の恐怖の感情は本物なのである。
だから、ゲーム実況は映画よりリアルなのだ。
そういう意味で、ゲーム実況を観るのはスポーツ観戦にも近い。
ちょっと脱線したが、ホラゲ実況は大人気という話だった。
それらのゲーム実況動画は、権利者にとって必ずしも損とは言い切れない面もあったため、黙認された。ゲーム実況がゲームの宣伝になる面もあるという事だ。
しかし、現実にはゲーム実況によって得をするジャンルのゲームもあれば、完全に損するジャンルのゲームもある事が分かっている。
スイカゲームやヴァンパイアサバイバー、バトロワゲー、マイクラなんかはゲーム実況を観てると自分でも遊びたくなるタイプのゲームなので、ゲーム実況によって売り上げ爆発した。一方で、ノベルゲームなんかはゲーム実況で損しかないゲームであり、売り上げを減らした。
ノベルゲームはほぼ小説みたいなもんであり、小説本編を丸ごとアップロードされて、それが宣伝になる…なんて事があるハズが無い。本編を読んでしまえば視聴者はそれで満足してしまう。
ホラーゲームも実況で損したゲームだ。そもそもホラーゲームを遊びたい人がほぼいなかった状況で、実況でストーリーやビックリシーンなんかを全部ネタバレされて、自分でも遊んでみようなんて思う人はいない。というか、自分では怖くて遊びたくないから実況を観るまである。
どんだけ有名なゲーム実況者に実況されても、その実況動画が何百万回再生されようが、元のホラゲの売り上げはまったく増えない。
逆にホラゲやってる実況者は大人気で収益を上げてる人も多い。ホラゲ実況で稼いでる人から、権利元に収益を還元する手段がないのもホラゲの大きな問題の一つだ。
マスコットホラーがどのように問題を解決したか
そんなわけで、今までのホラーゲームの置かれていた状況は悲惨だった。元々ユーザー人口が少なかったのに加え、ゲーム実況を観て済ませちゃう人が増えて、いよいよホラゲは絶滅するか?と思われた。
だが、そんなホラーゲームの中で、メチャメチャ成功するジャンルが生まれてしまった。
それがマスコットホラーだ。
マスコットホラーとは、その名のとおり敵がマスコットキャラであるホラーゲームだ。
ホラーゲームなのに敵にマスコット的なかわいさを持たせてしまった。
マスコットホラーが注目されるキッカケになったのは、FNAFというホラーゲームだ。
FNAFの敵キャラは、アニマトロニクスの動物キャラである。アニマトロニクスって日本人はあんま馴染みが無いが、アメリカではロボットのマスコットの着ぐるみみたいなのがレストランなんかで毎日ライブ演奏をするみたいなのが昔流行ってたらしい。
FNAFでは、別に狙って敵をかわいくしようとしたわけじゃない。子供の頃のノスタルジーを恐怖に歪めてしまうという感じで、ちゃんとメッチャ怖くしようとして作っている。かわいいはずのアニマトロニクスが”逆に”怖いというような文脈だ。
そうは言っても、そういうややこしい文脈を取っ払ってキャラだけ取り出して置いてみると、やっぱしただのかわいい動物キャラになってしまう。
先ほども言った通り、ホラーゲームそれ自体は売れなくても、ホラゲ実況動画は大人気だから、FNAFの実況動画も拡散しまくった。当然、FNAFキャラの周知度も爆上がりした。FNAF動画はサムネにかわいいキャラが載ってるからキッズがレコメンド欄見てクリックしまくるという点もポイントだ。
で、何が起こったかというと、FNAFキャラの人気が爆上がりしたのだ。
その結果、FNAFのグッズが爆売れした。ゲームよりグッズが売れたのだ。
「いや待てよ!たしかにそいつらは見た目はかわいいけど、その正体は恐ろしくて狂暴なんだぜ?」と言いたくなるかもしれないが、無意味である。人はなんかよく目に入ってくるかわいいモノなら欲しがる。たとえばまどマギがグッズ化されるたびに美樹さやかさんや杏子ちゃんを差し置いてキュゥべえがラインナップされがちだが、まどマギファンからすると「誰がキュゥべえなんか欲しがるんだよ?」と言いたいが、結局まどマギよく知らん人なんかは文脈を知らんから、見た目が可愛いだけでキュゥべえを買ってしまったりするのだ。
そんなわけで、ホラーゲームはかつて、全然売れないし、しかもゲーム実況されてさらに売り上げ落ちて逝きそうという二重苦を抱えていた。しかし、ホラゲ実況は大人気だからゲームの知名度だけは無駄にある状態だった。
だからマスコットホラーはキャラクター性を高める事で、高まった知名度を生かしてマーチャンダイズで儲けまくるという活路を見出したのだ。
FNAFの仕掛けはそれだけではない。”闇匂わせ”というギミックも仕込まれていた。
ゲーム内で拾えるジャーナルなどを読むと、それは単なるゲーム攻略のヒントだけではなく、ゲームの背後に闇の深い事件の存在を匂わせるような手がかりだったりする。
そのような事件の全貌は、単に最後までゲームプレイしても明かされる事は無い。
だから、みんなゲームの外で事件を推理し始めた。FNAF考察班の動画も大人気になった。FNAF考察だけのチャンネルなんかも生まれた。だからFNAFはゲームクリア、あるいはゲーム実況観て終わりではなくなり、ゲーム外での遊びが生まれ、話題性を長続きさせる事ができた。
これは、日本で言えば”ひぐらしのなく頃に”がそれ自体にゲーム性が無くとも、ゲームの外で真相を推理するのがゲームであると言われたのと同じような話だ。
そんな感じで、FNAFのようなゲームはマスコットホラーのジャンルを開拓したのだが、当時はまだ”マスコットホラー”という言葉さえ無く、どうしてFNAFは大人気になったのか、手探りのまま再現を狙うゲームが色々出た。
結果的に、マスコットホラーの成功法則は次第に洗練されていった。ほんでホピープレイタイムを経て、ガーデンオブバンバンに至ってほとんど完成したようにみえる。
例えば、FNAF当時は「マスコットホラーはFNAFのアニマトロニクスのような、子供の頃のノスタルジー要素が重要なのでは?」という事が考えられており、だからBendyなんかは昔のカートゥーンの美学を盛り込んでいる。一方で、ガーデンオブバンバンはノスタルジーの文脈もへったくれもない、ただ単にかわいいマスコットでしかない。ノスタルジー要素は成功には関係ない事が分かった。
さらに、もはやガーデンオブバンバンはゲームとしてあんま面白くなくてもいいという事実さえ明らかにしている。どっちみちみんなゲーム実況を観るだけなのだ。ゲームが面白いかどうかより、ゲーム実況が面白いかどうかが問題であり、実況動画の中でマスコットキャラにどんだけ活躍させれるかの問題なのだ。
また、ポピープレイタイムやガーデンオブバンバンは、細かくチャプターに区切ってリリースされている。ガーデンオブバンバンは数カ月ごとに新しいチャプターがリリースされて、現在チャプター4まで出ている。
このようにする事で、話題性の持続に大きなアドバンテージが得られる。
例えば、アニメは毎週1話ずつ放送する事で、少なくとも1クールの間は話題性が持続するわけだが、一方でネトフリのアニメは1クール分がまとめて公開されるので、一瞬で作品が消費されて話題が持続しない。
ガーデンオブバンバンでは新しいチャプターごとに新キャラが増えまくっている。キャラが増えれば新しいキャラグッズを投入出来て、さらに儲けられる。
とまあ、そのようにして、マスコットホラーは全然儲からなかったホラーゲームを金脈に変えたのだった。
まとめ
というわけで、話をまとめると、
- 従来のゲームの問題点
- ホラーゲームを遊びたい人がほぼいないので売れない
- 実況動画で済ませる人が増えてますます売れない
- マスコットホラーが解決した事
- 実況動画が拡散される事で、キャラ人気を稼いでマーチャンダイズで儲ける事ができるようになった
- 闇匂わせによって、実況動画観ただけで終わりではなく、ゲーム外で議論させて話題性を持続させる事ができた
- チャプター分割によって、話題性を長続きさせる事ができた
今まではインディーホラーゲームはニッチで儲からないものだったので、割とクオリティが低いものが多かったりした。マスコットホラーの成功法則が分かった今、参入の余地がありそうだ。
と同時に、儲かる事が分かってしまったこれからは、大手ゲーム会社が参入してくるかもしれないし、競争が熾烈になっていくかもしれない。
マスコットホラーのジャンルはまだまだ始まったばかりなのかもしれない。これからさらに洗練されていくだろう。その行きつく先はどこなのだろう?ちょっと思っているのが、もしかするとマスコットホラーの行き着く先はUndertaleのようなゲームかもしれない。Undertaleはホラーゲームではないが、そもそもマスコットホラーはホラーでなくてもいいのかもしれない。Undertaleは体験としてキャラクターを伝える事に非常に優れている。
アンダーテールに学ぶ、ゲームでキャラクターを”体験”させる方法
マスコットホラーも本質的にはこういう事なのかもしれない。
最後にもう一つ思ったのが、ずんだもんはマスコットホラーに似てるところがあるかもしれない話だ。
ずんだもんは、公式によって立ち絵と設定、Voicevox音源が用意されているだけだ。なのに、日本で大人気のキャラクターになっている。
初音ミクの人気を思い出すが、ボカロやボイロがそれ自体有料アプリなのに対して、ずんだもんVoicevox音源は無料で使える。
だから、ずんだもん動画がどんだけ大量に作られて再生されても、公式はまったく儲からないという意味で、ホラーゲームの置かれていた立場に似ている。
いや、旧来のホラーゲームはずんだもんというよりSoftalkの立場に近いか。Softalkはそれ自体にキャラが付けられてなかったため、どんだけ使われてもキャラ人気を得られなかった。その上ゆっくりとかいうよく分からんキャラが付けられて、そっちが大人気になってしまった。
で、マスコットホラーやずんだもんはちゃんとキャラを付けている。そのおかげで、たしかにどんだけ動画でコンテンツが使われてもそれ自体からは利益を得られないものの、キャラクターの人気は着実に高める事ができて、最終的にはマーチャンダイズで大儲けできるわけだ。
ボカロ、ボイロ、Voicevoxは、元々は漫画やゲームなどの核たるコンテンツを持たないのに、大勢のクリエイターがそれらを使って動画を作ってくれて、キャラを人気にできた。こんな風に、自分が頑張らなくてもUGCで勝手にキャラを育ててもらえるのはキャラビジネスの聖杯と言えるだろう。
これができたのは、ボカロやボイロが動画を作るための道具、素材として非常に有効だったからだろう。
そういう意味では、マスコットホラーももはや、実況動画のための道具、素材として観る事も可能だろう。とすると、実はホラーゲームとしての体裁は必須ではなく、ウケる動画が作れる道具、素材でさえあればいいのかもしれない。
それってつまり何なのか?と言われても、そこまでは分からない。とりあえず今は、界隈の動向を追い続けるしかないだろう。