はじめに

Ready Player Oneとは2011年にアーネスト・クラインによって書かれたSFエンターテイメント小説です。

参考リンク:ヴァーチャル空間で日本のロボットが大暴れするアメリカ小説『ゲームウォーズ』

本の概要については↑のブログ記事を見ていただくとして、アメリカではかなりのヒット小説となったみたいで、2017年にはスピルバーグ監督により映画化されるそうです。
それはたしかにすごいですが、私がこの小説に着目しているのには別の理由があります。

なんとOculus社ではこの小説を必読書としており、新入社員全員に配布しているというのです。

参考リンク:Ernest Cline’s “Ready Player One” is required reading at Oculus VR.

すなわち、この本にはOculusのビジョンが記されており、この本を読めばOculusがこれからどこに向かっていこうとしているのかわかるかもしれません。

私はこの小説を読んでみましたが、内容の大部分は1980年代へのオマージュで満ちています。
多分Oculus社のビジョンはこれはあまり関係なくて、もう一つの軸となっている近未来のVRプラットフォーム、「OASIS」にこそOculusのビジョンが体現されていると思われますので、このOASISの説明を以下に記してみたいと思います。
まあ、実際の小説を読むのが一番わかりやすいと思いますが…

Ready Player Oneの時代背景

これは本題とは関係ないですが一応触れておくと、舞台は2041年のアメリカです。
この世界では石油が枯渇してしまっており、輸送手段が限定されてしまったことにより食料不足が起きてしまい、結構荒廃しています。

自家用車に乗るのは困難になりましたが、一部電気で動くバスなどが運航しています。

この時代の人々は現実が荒廃した分、OASISを使ってVRの中で旅行を楽しんだり、ショッピングをしたりしています。
もはやインターネットイコールOASISという状況になっており、人々はヒマさえあればOASISにログインしており、そもそもOASIS内で働く人も多くなってます。

OASISとは

本題に入ります。

多人数同時参加型オンラインゲームとして生まれたOASISは少しずつ進化を続け、いまや地球上のほとんど全員が日常的に利用するネットワーク型バーチャルリアリティに成長しています。

基本セット

OASISで遊ぶための基本セットは、「OASISコンソール」「バイザー(ヘッドマウントディスプレイ)」「ハプティック(触覚フィードバック)グローブ」の3つです。

OASISコンソール

ペーパーバックくらいの大きさの三角形をした黒い平らな物体。
ワイヤレスネットワークアンテナを内蔵しています。
ゲームハードみたいな役割のものです。

バイザー

フリーサイズの無線通信式バイザーは大ぶりのサングラスといった風情をしています。
健康に害の出ない低出力のレーザーを使ってOASISの驚くほどリアルな環境を網膜に直接描く仕組みになっています。

こめかみのあたりから小さなイヤホンが出ていて、自動的に耳の穴に収まります。
ステレオマイクも2つ内蔵しています。

オンラインの世界がユーザーの視野を完全に埋め尽くします。
OASIS以前は重たくて不格好なVRHMDが流通していました。

ハプティックグローブ

アバターの手の動きをじかにコントロールしたり、シミュレーションの世界に自分が入り込んだかのようにOASIS内の物体を動かしたりできます。
ものを持ち上げたり、ドアを開けたり、乗り物を運転したり。

実際には存在しないものの存在や手触りをフィードバックし、目の前に本当にあるかのように感じさせます。

OASIS概要

OASIS(存在論的人間中心感覚没入型仮想環境)は、GSS社によって2012年12月に発表されました。
やがて全世界の人々の生活、仕事、コミュニケーションのあり方を根底から変え、エンターテインメント、ソーシャルネットワークを変容させ、世界の政治まで一変させることになります。

発売当初はそれまでになかった大規模マルチプレイヤーオンラインゲーム(MMOG)として売り出されましたが、やがて新しいライフスタイルの一つへと進化を遂げます。

OASISには高解像度3Dで作られた数百に上る惑星があり、ユーザーは自由に探索できます。
それぞれの世界は、昆虫や草、風、天候の移り変わりまで描きこまれていて、同じ景色の使いまわしなどは一切ありません。

OASISにログインすれば、世界中の誰でも退屈な現実世界から即座に逃避できます。
まったく新しい別人格を作り、外見や声を自由に設定できます。
人間以外にも、エルフやオーガ、異星人などのアバターにもなれます。

ユーザーはOASIS内に自分だけの惑星を作り、そこにバーチャルな豪邸を建て、好きな内装や装飾を施して、数千の友人を招いてパーティを開くことも可能です。

OASISはインターネットを利用する最大の動機になっていき、やがてインターネットイコールOASISという状況になりました。

GSS社が無料で配布した、操作が簡単なOASIS OSは世界でもっとも利用者が多いOSとなりました。

やがて世界中の人が毎日OASISの中で働き、遊び、出会い、恋に落ちて、結婚するようになりました。

OASISリアリティエンジン

従来と全く異なる、接続中の全コンピュータのCPUパワーを補助的に使う、新しい無停止型サーバーアレイシステムにより、例え500万ユーザーが同時にアクセスしてもレスポンスは遅れません。

OASIS普及を後押しした時代背景

社会的、文化的な変革に差し掛かっていた当時、世界の人口の大半が現実から逃避する先を求めていました。
OASISはそれを安価で、合法で、安全で、中毒性がない形で実現しました。

原油価格が暴騰して飛行機や自動車を使った旅行が難しくなって、庶民が手が届く娯楽はOASISだけでした。

ハイパーリアル・エステート

GSSは商業地域セクター1に数百万区画の超リアルな不動産を用意して、OASISへの出店を望む企業に販売、賃貸しました。

匿名&無料

OASIS最大の特徴は、ユーザーの匿名性が保証されていること。
もう一つは、普通のMMOが月額料金がかかるのに対して、OASISは無料で利用できるところです。

OASISのビジネスモデル

OASISは無料で利用できますが、バーチャルな商品や乗り物を買うのにはお金がかかります。
他にも上記のハイパーリアルエステートで得た利益もあります。

また、乗り物で他の惑星に行く時に必要なバーチャル燃料や、テレポーテーションにもお金がかかり、これはOASISの収益の柱となっています。

インタラクティブ・エデュケーション・プログラム

「セサミストリート」をモチーフにした、無料の幼児教育プログラムです。
気のいいマペットたちと歌を歌ったり、インタラクティブなゲームで遊んだりする事で、歩き方、しゃべり方、足し算引き算、読み書きまで学ぶことができます。

OASISライブラリ

過去に書かれたあらゆる書物、レコーディングされた歌、製作された映画、テレビ番組、ビデオゲーム、アートに自由に触れることができます。

OASIS公立学校

この時代、現実世界の公立学校は資金不足で破産寸前の状態になっており、平均点以上の学生はオンラインの学校に通う事が推奨されており、OASIS内の公立学校に入学することができます。
OASISの学校の授業中は席から動くことができない、不適切発言が自動ミュートされるなどの制限があります。

OASISクレジット

OASIS内の通貨のOASISクレジットはこの時代でもっとも安定した通貨であり、ドルやユーロや円よりも価値が高いです。

ゲームプレイ

OASISにログインすると前回ログオフした地点から開始されます。

リアルタイム・エモーション機能で自分の表情やボディランゲージがアバターにそのまま反映されます。
話を聞きたくない相手はいつでもミュートする事が可能です。
メール、ビデオメール、文字チャット、ボイスチャット、ビデオチャットなどは何時でもどこにいる相手とでも可能です。

惑星によってPvP禁止ゾーンやテクノロジー使用禁止ゾーン、魔法使用禁止ゾーンなどがあります。

OASIS内でさらにアーケードゲームや家庭用ゲームを遊んだり、対戦もできます。

ウェブをブラウジングしたりチャットルームに入っているユーザーはビジー状態となり、目を閉じて見えます。
ウェブブラウザを開くと目の前の空中にウインドウが開き、操作できます。
他の人からはこのウインドウは見えません。

チャットルーム

どこからでもチャットルームに入ることができます。
チャットルームはOASISとは別世界のスタンドアロン型シミュレーションで、実際にはアバターはOASIS内にいますが、同時に存在するチャットルームのアバターの方を操作する形になります。

チャットリンク

チャットリンクはチャットルームより高額な開設費用が掛かるもので、企業などの会議で実際に集まる手間を省くのに使います。
チャットリンクはチャットルームと違い、招待されると同じOASIS上で自分の半透明な分身がチャットリンク先に出現する形になります。

パーソナルOASISビデオフィード

月額料金を払えばだれでも自分のストリーミングテレビ局を開設できます。
OASISにログインしてる人は誰でも好きなチャンネルを何時でもどこでも視聴できます。

何を放送するのかは自由ですし、アクセス制限を設定したり、時間単位で視聴料金を徴収することもできます。

多くのユーザーは自分のアバターの様子を常時撮影、配信する”のぞき見チャンネル”を運営しています。

RPG

元々OASISはMMOとして始まったので、NPCの敵と戦ってレベルを上げたり装備を強化していくRPG要素は普通にあります。
ただし半数くらいのユーザーは代替現実としてOASISを利用しているので、そういう人たちはRPG要素にはまったく興味を持ってないですし、敵の出てくるエリアやPvPゾーンには近づきません。

基本セット以外のデバイス使用

OASISは基本セット以外のデバイスを使用してプレイすることもできます。

常により新しく、より速く、より多くの用途に使える部品があとからあとから発売されている状況です。

主人公は話の後半で高額なイマージョン装置一式を揃えます。

ハプティックチェア

椅子が壁と天井に固定された二関節のロボットアームに支えられており、ロボットアームが椅子を全方位に回転させます。
ストラップで体を固定すれば、椅子ごと宙返りしたり回転したりすることも可能ですし、落下したり空を飛んだりする感覚もリアルに味わえます。

全身型ハプティックスーツ

外側が複雑な構造をした外骨格で覆われており、人間の動きを感知したり、抑制したりします。
スーツの内側にはミニミニサイズのアクチュエータが数センチおきにビッシリ配置されており、触覚刺激を皮膚に与えます。

嗅覚タワー

二万種類の匂いを発生させる能力を持ってます。
バラ園、潮風、火薬が燃えるにおいを再現できます。
エアコンと空気清浄機も兼ねてます。

ランアラウンド全方向トレッドミル

全方向型のランニングマシンです。
どっちに向かって歩いたり走ったりしても、それに合わせて表面が動いてくれるので実際には中央から動かずにすみます。
昇降機能と無定形サーフェスが搭載されていて、上り坂を歩いたり、階段を上ったりする感覚を再現できます。

ADハプティックドール

要するにOASIS向けダッチワイフです。
スタンドアロン売春宿シミュレーションでバーチャルセックスしたりできます。

OASISフィットネス・ロックアウト・ソフトウェア

人間のバイタルサインを常にモニターし、その日に何カロリー消費したか正確に記録します。
運動量が目標量に達するまでOASISにログインできなくなります。

食事摂取量も監視しており、プリセットメニューから食事を選ぶとソフトが勝手にネットで注文して、宅配されます。
追加で注文して食べるとその分目標運動量も増加してしまいます。

考察

以上がOASISの概要です。

これがOculusのビジョン…夢があるような、でも時代背景や人々のプレイする動機を考えると夢がないような…。

まず思ったのが、網膜にレーザーで映像を投影する方式は実現可能なのでしょうか?
実はすでに富士通などがこの方式のアイウェアを発表しています。

参考:富士通フォーラム 2015に網膜投影型レーザーアイウェアなどが展示

Oculusもいずれこの方式の製品を出したりするのかもしれないですね。

次に気になったのが、OASISリアリティエンジンです。
「接続中の全コンピュータのCPUパワーを補助的に使う、新しい無停止型サーバーアレイ」って一体どういう事なんでしょう?
通常のMMOがなぜ同時アクセス数千でパンクするのかというと、全ての処理をサーバ上で行っているのが一番のネックです。
クライアントサイドで処理してしまえばいいじゃんと思いますが、クライアントに任せてしまうと悪意のあるユーザは好き勝手にチートします。

一つ思いつくのは、クライアントサイドで決済処理をやってしまっている仮想通貨の仕組みを取り入れる方法です。
ビットコインでは処理された結果が悪意のあるユーザーによる不正処理ではないことを、プルーフオブワークスとブロックチェーンの仕組みで保証します。

これを応用すれば、MMOでもクライアントに処理を委譲しつつ、不正な処理を防ぐ事ができるかもしれません。
そうなればMMOのサーバ同時接続数は一気に跳ね上がる可能性があります。

もう一つ、OASISを操作するデバイスは色々なメーカーがどんどん新製品を発売しているという描写です。
つまり、OASISでは多様なデバイスを統合的に扱える仕組みがあることになります。

おそらく、アバターを操作する入力とOASIS世界から帰ってくる出力データのフォーマットが決まっているのだと思われます。
その入力、出力データを適切に扱えば、どんなデバイスからでも操作、ハプティックフィードバックが可能になるというわけです。

OculusRiftでもすでにLeapMotionやOculusTouchやKinect、NEURONからの入力を統合的に扱う必要が出てきており、割と近いうちに解決すべき課題として浮上するかもしれません。
ちなみにAltspaceVRはLeapMotionにもKinectにも対応するなど統合的な対応を進めているみたいです。

こうして考えてみると、割と近いうちに仕組みとしてはOASISと同じようなものを実現できる日は近いような気がしてきました。
Oculusが見つめるVRのビジョン、ワクワクしてきますね!

ここまで読んでくださってありがとうございました。