まあちょっと結果論的な話になってしまうんですが、VRとかで誕生したばかりのプラットフォームにサードパーティとして飛びつくのは得策じゃないかもしれないという話です。
VRに限らず今後出てくるであろうあれやこれやのデバイス、プラットフォームでも応用できる話だと思うので書いてみました。
サードパーティに先行者利益はあるのか?
先行者利益とは、新しい市場にいち早く参入した時に得られるメリットの事です。
例えばvTuberは、一部例外はあるものの、おおむね最初期に始めた人ほど人気になっており、たとえ今からキズナアイちゃんクラスの高いクオリティのvTuberを始めても、今から注目を浴びるのは難しくなってます。
こういった環境であればたしかに先行者利益があると言えますが、vTuberはyoutubeというすでに成熟して普及しきったプラットフォームであればこそであって、VRという生まれたばかりのプラットフォームでは話が違ってきます。
何故なら、イチ早くゲームソフトを投入しても、デバイスの所有者がまだ少なければ、買い手が存在しないからです。
開発費を投じて作ったソフトが売れなければ、開発費を回収できず、続編を開発する事ができません。
仮に数年経ってデバイスが普及したとしても、その頃には大手のビッグタイトルが揃っていて、黎明期のタイトルが顧みられる可能性は高くないでしょう。
SteamVRではVRカノジョやBeat saber、Job Simulatorなどの一握りのインディータイトルが成功しているだけで、他のほとんどのインディーデベロッパーは厳しい状況になっていると思われます。
そうこうしている内にグランツーリスモやエースコンバット、バイオ7、スカイリムなど、家庭用ゲームの大手メーカーからVR向けにどんどんビッグタイトルがリリースされました。
先行者だったインディーデベロッパーに先行者利益があったかというと、ほとんどの人は状況が厳しくなっただけではないでしょうか。
そもそも新興プラットフォームには、結局最後まで普及せず潰れてしまうリスクがあり、そういうリスクを負ってまで開発したところで、結果がこれでは、どこにメリットがあるんだ?と言いたくなります。
故に、生まれたばかりのプラットフォームに参加するのは得策じゃないという説をぶち上げました。
iOSとSteamVRプラットフォームの違い
VRヘッドセットなどの新しいデバイスが発売されるとそれに合わせて開発者SDKが配布されてストアが開設されて、プラットフォームですよ。みたいなのがお決まりになってます。
iOSの登場以来お決まりのパターンになってますが、そもそも論としてiOSとSteamVRのプラットフォームでは決定的な違いがあります。
その違いとは、Appleは当初サードパーティにiOSアプリ開発を開放するつもりなんてさらさら無かったという点です。
つまりAppleは自力のコンテンツだけでiPhoneというデバイスを普及させる気マンマンでした。
AppleはiPhoneに自前のキラーコンテンツを持ってました。それはiTunesです。
そもそもiPhoneはそれまでイチイチ大売れしていたiPodの発展形みたいな音楽が聴ける携帯電話というデバイスとして登場しました。
キラーコンテンツも最初からあって、普及する事が約束されていたデバイスですから、外部の開発者は「頼むからアプリ作らせてくれ!」と土下座する勢いでAppleに頼み込んだ結果、サードパーティへの開放が認められたのです。
このように、約束された勝ち馬プラットフォームに乗っていくのがサードパーティのあるべき姿であって、コンテンツもサードパーティ頼みだし、今後普及していくかさっぱり不透明な新興プラットフォームに乗り込むなんてのはリスクが大きすぎます。
これがiOSとSteamVRなどの新興プラットフォームの違いです。
ファミコンでもソフトが続々大ヒットするのを見てから色んなデベロッパーが「ウチにもソフト出させてくれ!」と任天堂で懇願するような事態でした。
そういうプラットフォームでやるからこそチャンスであり、プラットフォーマーの方からインディーデベロッパーに「是非ウチ向けにソフト作ってください~」なんて頭下げに来るのはチャンスというより罠の可能性あります。
そんなに言うならせめて開発費くらい負担してくれるのが筋ではないでしょうか。
たとえばEpicはアンリアル・デヴグランツという開発者支援プログラムで、応募された中から目ぼしい人に開発費を60万~600万円サポートするという事をしています。
そもそもJob SimulatorやTilt BrushはViveにバンドルされていたので、そりゃ売れて当然というもの。ズルいと言いたいですが、逆に言えばこれくらいの優遇でも無ければ新興プラットフォームでの開発なんてやってられないって話ではないでしょうか。
とにかく言いたいのは、新興プラットフォームはプラットフォーマーが自力あるいは自腹でキラーコンテンツを用意しなければ普及しないって事です。
ちなみにOculus社はこの点をよくわかっていたみたいで、自社でHenryやDear Angelica、Medium、Quill、Dead and Buriedなどの素晴らしいソフトをバンバン出してくれました。でもFacebookに買収されてからはOculusストーリースタジオが閉鎖されてしまうなど不穏な雰囲気です。
デバイスを牽引するのはサードパーティの仕事じゃない
任天堂だって自力でどんどんキラーコンテンツを作ってハード販売を伸ばしてます。
サードパーティはハードウェアの販売を牽引するほどのキラーコンテンツを作ってやるぞ!とまでの意気込みは普通持てません。
何故ならプラットフォーマーと違って、サードパーティはデバイスの売り上げに貢献したところで何も得しないからです。
故にプラットフォーマーがまず率先して頑張ってキラーコンテンツを作る必要があります。
サードパーティがデバイスを牽引した例外としてプレステのヒットがあるっちゃありますが、あれは任天堂がサードパーティをいじめすぎて、恨みを買って反任天堂連合を結成されてしまったみたいな特殊な事情によります。
VR開発者で成功しているパターン
色んなVR開発者を見ていると、成功している人のパターンが見えてきます。
成功している人は、VRヘッドセットが普及しようがしまいが関係ないビジネスをやっています。
例えば、VRが目新しかった当初は色んな企業がイベントでコンテンツ展示を行ってました。
展示なら、デバイスが普及してなくても構いません。物珍しさからお客さんが集まってくれさえすればいいのです。
こういうコンテンツの開発受託でやって行ってる開発者はやっただけ報酬をもらっているので成功しています。
目新しい技術のハイプサイクルを上手く生かした手法です。
他の方法として、ハシラスさんのようなロケーションVRも成功しています。
展示コンテンツと同じ話で、デバイスが家庭に普及してなくてもお客さんが来てくれればいいので、成功しました。
vTuberもVRヘッドセットの普及が必要ありません。
vTuberの演者さんだけがヘッドセットを付けて、配信はYoutubeなどから行うので視聴者は普通にYoutubeを観るだけでいいからです。
これらに比べると、普及しなければどうしようもないSteamVRのサードパーティとしてアプリを出すのがいかにリスキーな行為かという話です。
これからもVRに限らず有象無象の新しいデバイス、プラットフォームが出てくると思いますが、もしそういうデバイスで何かやろうと思ったら、これらのポイントを押さえておけば上手く行くんじゃないかと思います。