はじめに

今回は、タイトルの通り、データを見ながら漫画家という商売について考えてみる記事です。

漫画家になりたい人向け?の記事になると思います。

が、あらかじめ断っておきますが、私自身は漫画家でもないですし、一切漫画ビジネスとの関わりはありません。

つまり、部外者が推測で適当な事を書いてしまうという面が少なからずあるでしょう。
そういうのはけしからんという意見もあるかもしれません。

しかし、それならば実際の漫画編集担当の人が、専門的見地から、こういう情報を出してくれてもいいハズなのに、実際には私はこの記事で書くような内容の情報をあんまり見かけません。

結局、本業で漫画編集をやっているような方は、守秘義務との兼ね合いなどもありますから、迂闊にこういう話は書けないという事かもしれません。

であれば、私のような門外漢が推測交じりで書くような記事でも、何も無いよりはマシだろうと思い、書いてみる事にしました。
つまり、実情を何にも知らない部外者だからこそ書ける話もあるだろうという事です。

そのようなスタンスで書かれた記事であるという事を、初めにご了承ください。

子供の頃の私の将来の夢としての漫画家

子供の頃、将来は漫画家になりたいという夢を持っていた人は結構多いのではないでしょうか。

私が子供の頃(1990年~2000年くらい)は、暇つぶしと言ったらテレビを観るか、ゲームで遊ぶか、漫画を読むかくらいしかありませんでした。
基本的にヒマな時は書店とかゲオとかブックオフに入り浸ってひたすら立ち読みしていた記憶があります。(なにしろまだネットが無かった時代でした)

高校生になってパソコンを入手する前は、自分でゲームを作るなんて選択肢は想像ができませんでしたし、ラクガキくらいなら自分でもやってましたから、子供の私も漠然と「漫画家になりたいなあ」と憧れていたように思います。

大抵の人は、大人になるにつれて、子供じみた夢を捨ててしまうタイミングがあると思いますが、私は社会人になってからも微妙に夢がくすぶってました。
それで、試しにオリジナルのマンガを描いてコミティアに出展してみたりした事もあります。
そこで出張編集部に持ち込みしてみたら、色々とダメ出しを受けて、なんとなく挫けてフェードアウトしてしまい、色々と流れに身を任せてる内に、今ではUnityエンジニアをやっているという事になります。

高校球児とかは青春を野球にぶつけて、甲子園出場で完全燃焼して、そうしたら憑き物が取れたかのようにサッパリと夢を諦めて社会人になるという流れがあります。
が、私の場合は何となくやってみて、何となく挫折したという中途半端さゆえに、なんとなく心の片隅で漫画家の夢がくすぶっているようなそうでもないような気がしています。

夢は呪いだ」みたいな台詞を何かの漫画で読んだ気がします。

ビジネスマンの考え方と漫画家の考え方

今の仕事をやっていると、当然ですが色々な人と関わります。

漫画家と同じようにクリエイター目線で仕事をしている人もいますし、漫画編集者のようにビジネス目線で経営を考えている人もいます。

面白いな~と思うのは、ビジネス目線でモノを考える人は、”数字がメッチャ好き”という特徴があります。

例えばビジネスで新規事業を起こすとします。例なので何でもいいですが、新しく掃除機の製造・販売業を始めるとしましょうか。
そうしますと、真っ先に調べるのは掃除機の市場規模がナンボか?という数字です。日本の掃除機の市場規模が年間100億円だとしたら、どれだけ頑張ってシェア100%取っても年間の売り上げは100億円が天井になると分かります。
それから、競合他社の掃除機のスペックや売り上げを調査します。
まあそうやって、あれやこれや色々な数字を検討すると、新規事業を始める前から大体の売り上げ見込みが立てられるので、儲かりそうかどうか分かります。

ビジネスは数字、データが基本という事ですね。
だからビジネスマンは数字が好きです。

ちなみにスタートアップとかだとそもそもまだ市場が存在してないビジネスをやろうとしたりしますが、その場合も、自分たちのプロダクトの”潜在的な”ニーズはどれくらいだろう?みたいな感じでターゲットになりうるお客の数を計算したりします。取らぬ狸の皮算用かもしれませんが、ある程度当てずっぽうでも数字を出していかないと事業計画を建てて話を進める事ができません。

↑このツイートのなるがみさんは先日、個人で興したSkebの事業を10億円で譲渡されています。

ところで、商品に使うイラストを誰に描いてもらおうか?みたいな話を検討する時に、イラストレーターのtwitterフォロワー数とかが問題にされがちらしいです。
「Aさんはフォロワー数が1万しかいないから、フォロワー数3万のBさんに頼んだ方がいいんじゃないの?」みたいな。

私はこういうフォロワー数で判断しちゃうのってどうかと思いますが。
と言うのも、フォロワー数は一律で数字だけ出てきますが、どういう文脈で獲得したフォロワーなのかは分かりません。Bさんはフォロワー数は3万ですが、そのほとんどはイラストのファンというよりBさんのオモシロ発言に惹かれてフォローしたのかもしれません。
極端な話だと、例えば前澤さんはお金を配る事でフォロワーを獲得しています。

それに、ぶっちゃけフォロワー数は操作できます。フォロワー数を増やす業者がいるので、そこにお金を払って依頼すればフォロワーは何万でも増やせます。同様にRT数やライク数も操作できるでしょう。

まあ、イラストの実力を見たいなら、少なくともtwitterのフォロワー数よりはpixivのフォロワー数を見た方がマシだと思います。twitterは色んな文脈でフォローされますが、pixivはイラストサイトなのでフォロワーも確実にイラストが気に入ったという理由でフォローしてくれてるはずだからです。

話を戻しますが、ビジネスマンは数字が大好きですから、イラストレーターを選ぶ時もフォロワー数という数字を気にするという話でした。
会社のお金を使ってイラストを依頼する事になりますから、単に自分の好みのイラストレーターさんに依頼するって訳には行きません。上司に「何でこの人にしたの?」と訊かれた時に、何か根拠を示す必要があるわけで、ついつい分かりやすい数字としてフォロワー数を持ち出してしまうという構造があります。

twitterでたまに”担当編集から「最低でもフォロワー1万はいないと話になんないよ」って言われた!”みたいな話題が上がってたりします。

まあ出版社もビジネスで漫画を出版してるので、漫画の担当編集もビジネスマンですから、つまり数字が大好きなわけで、やっぱりフォロワー数とかを持ち出したくなるわけです。

こういう話を聞くと、「担当編集なんかに何が分かるってんだ?数字なんかクソくらえだ!」と、むしろ数字を否定してしまう気分になる人もいるかもしれません。

漫画やイラストというのはクリエイティブな仕事ですから、なんでも数字ありきのビジネスマン的な考え方とは相容れないと思われるかもしれません。

仮に先ほどの掃除機ビジネスの考え方を漫画に適用してみると、漫画で今一番売れてるのは鬼滅ですから、そこに市場があるわけで、鬼滅をパクれ!と言う話にしかならない気がします。
ビジネスというのは基本的にすでに売れてて市場が立ち上がってるものの再現を狙いますから、ビジネスの考え方をクリエイティブな事業に持ち込んでも、何をパクるかという話しかできず、全然クリエイティブな事ができなくなります。
あれをパクれ!これをパクれ!と言われても漫画家としては自分の描きたいものがあるから漫画家になったわけで、うっせえわ!って感じでしょう。

さて、困った事に、筆が滑って私が書きたかった結論とは真逆の方向に話が進みつつありますが、私が言いたいのは、「それはそれとして漫画家側も数字について考えてみるとおもろいかもよ?」という話です。

私がそのようなアイデアを抱いたきっかけは、例によってヒロユキ先生の「マンガで分かる 本気で売れるためのヒロユキ流マンガ術」です。

この本のコラムでヒロユキ先生は、「漫画家になりたい人の多くは全然漫画を読んでない。もっと漫画を読んで!ジャンプだけ読んでるとかじゃ足りない。単刊5万部以上売れてる漫画は全部読んで。それくらい売れてる漫画は明確な売り魅力を持ってるから、そういう漫画を一杯読めば自分のマンガと比べてどうか?みたいな判断力が付いてくるよ。僕は漫画を読んだらその漫画の売り上げを調べるよ」みたいな話をされてます。

これを読んで、なるほど!早速実践してみよう!と思った私は漫画の出版部数のデータを調べてみる事にしました。

漫画の部数データはどこにある?

私は、書籍の売り上げデータとか出版部数データはどっかにまとまっていて、ググればすぐ分かるものだと思い込んでいました。

しかし、ちょっとググっただけでは中々情報が出てこない事に気付きました。

鬼滅が1億5千万部出た!みたいな、超メジャー漫画についてはむしろ積極的に宣伝されていますが、もう少しマイナーな漫画とかだと出てきません。

どうやら、基本的に出版社は漫画の部数を公表してないようです。

これは意外な事実でした。
アニメなんかだと、各作品ごとにブルーレイの売り上げデータがまとめられて、5ちゃんとかでワイワイ盛り上がってる印象があるのに。

漫画の出版部数は作者のプライバシーに関わるという話みたいです。
部数を公開してしまうと、部外者が部数で作者を格付けして優劣を付けたりし始める可能性があって、迷惑だからとの事。

たしかに、ブルーレイ売り上げ論争で、売り上げ枚数という分かりやすい数字に飛び付いて優劣を競い合っているのは醜く見えるかもしれません。

そもそもですが、そういうブルーレイの売り上げデータはどこから取ってきているのでしょうか?調べたところ、ソースはオリコンだそうです。

https://www.oricon.co.jp/rank/

↑というわけでこちらがオリコンのサイトですが、たしかにアニメDVDや漫画のデイリー、週間、月間のランキングが見れます。

しかし、ランキングは見れますが、具体的な売り上げ数は書いてませんね?
さらに調べたところ、You大樹というサイトで有料会員登録すると、オリコンサイトよりもっと詳しいデータが見れるとの事。

https://ranking.oricon.co.jp/

ためしに会員登録してみました。
たしかに、CDやDVD、漫画の売り上げ推定データが具体的に表示されます!5ちゃんのブルーレイ売り上げ情報のソースはこれでしょうね。

ちなみにオリコンの仕組みは、色々なショップに協力してもらって、それぞれのお店の売り上げを集計しているそうです。なので、例え出版社が部数を公開してなくても、何冊売上げたかが大体分かってしまいます。

それはいいのですが、私はYou大樹で網羅的な漫画の売り上げデータが見れる(例えば作品名で検索したらその作品の売り上げ数が分かるとか)かと思ったのですが、実は週間Top50(過去6週分)、月間Top20(過去6カ月分)、年間Top30(2009年以降)のデータしか見れません。

最近のTop50なんて、ほとんどがワンピース、鬼滅、呪術廻戦で埋め尽くされてるので、ほとんど役に立ちません。

もっと網羅的なデータが見れるサイトは無いのでしょうか?

例えば、紀伊国屋書店は、POSデータの売り上げが網羅的に調べられる「PubLine」というサイトを用意しています。
しかし、これを利用できるのは出版社だけで、一般人は使えないとの事。さらに、月額料金10万円もするそうです。

月額10万…書籍の売り上げデータって、そんなにお金を払う価値がある感じなんですね。
しかし、漫画の出版部数のデータも売り上げのデータも一般人からはアクセスできないとなると、手詰まりですね。

ヒロユキ先生は、「単刊5万部以上出てる漫画は読んでみよう」と仰ってましたが、そもそもどの漫画がどれくらい出ているかなんて分からないんじゃないですか。漫画家だけの情報網みたいなものがあるんでしょうか?

データが手に入らないんじゃしょうがない…諦めかけたその時、こんなサイトを見つけました。

https://book-rank.net/index.cgi

書籍ランキングデータベース」というサイトです。

なんと、2014年~2019年の各年の漫画年間ランキングTOP500とそれぞれの売り上げが見れます!
おかげで、You大樹より過去の、幅広い漫画の売り上げデータを手に入れる事が出来ます!
このデータのソースは何だろう?というと、どうやら毎週のYou大樹の週間ランキングの部数を集計して公開してくれてるみたいです。
これはありがたい!

さらにググってると、別のデータも発見しました。

https://kannbunn.github.io/MangaSales/

このページでは、2016年までの全て?の漫画について、単刊ベースでランキングされているようで、なんと1645位まで見れます。
ただ、このデータはちょっと出所が分からない感じがあります。今まで紹介したサイトはPOSデータからの売り上げベースでしたが、このデータは出版社が公開してないはずの出版部数ベースです。

しかし、これだけのデータを捏造するのも大変ですから、まあ参考にするだけしてしまっていいのかもしれません。
大抵の有名漫画は載ってますね。このデータのおかげで過去の人気漫画の部数が分かるようになりました。

さらにまた別のサイトも見つけました。

http://shosekiranking.blog.fc2.com/

漫画・マンガ・コミック 売上ランキングBEST500」というブログサイトです。
このサイトではなんと、毎日の漫画売り上げTOP500位までが掲載されてます。さらに週間、月間、年間ランキングも見れますし、週間、月間、年間については、それぞれの作品毎ではないものの、100位、200位などの区切りで売り上げ推定数が掲載されてますので、各作品のおおよその売り上げは見当が付きます。過去のデータは2013年くらいまで遡れます。
このサイトのデータも出所がちょっと分かりませんが、サイトの説明によれば、色々な書店の売り上げデータを集計したものらしいです。
この非常に充実したデータのおかげで、結構マイナーな漫画でもバッチリ売り上げが推測できるようになりました。

ちなみに、このサイトのデータは、Amazonとかの売り上げが含まれてない事に注意してください。
また、電子書籍の売り上げも含まれてません。
そうなると、データと実際の売り上げは食い違ってくるという事です。

実のところ、今は電子書籍の売り上げは紙の漫画とほぼ同じ、むしろやや上回ってさえいます。

2019年 ついに紙コミックと電子コミックの販売金額が逆転!出版月報(2月号)より

という事は、平均的に言って、電子書籍分を含めると、POSデータが示す紙の売り上げの2倍くらい売れてそう、という事になるでしょう。

もちろん、作品によって紙と電子の売れ行きの配分は異なるでしょう。
例えば、こちらの記事ではヒロユキ先生の場合は電子よりも紙で売れるジャンルだそうで、紙が10売れた時に電子が5売れるくらいの割合だそうです。

「今のマンガ家って売れても儲からないんですか?」 『アホガール』のヒロユキ先生に聞く、マンガの現状

また、POSデータにAmazonの売り上げデータが含まれないので、マイナーな漫画は売り上げ推定値が実態と乖離する可能性があります。
何故か?

漫画の売上ランキングだけどコミック専門店やネット書店と電子書籍の売上は含まれない話

↑こちらのまとめで言及されてますが、どうやら書店の方でもPOSの売り上げデータを参考にしているようです。そうすると何が起こるかと言うと、書店は売れそうな本ばっかり仕入れてマイナーな漫画を入荷しないという状態になっていきます。

私は漫画の発売日に、今すぐ読みたかったので近所の書店を回ってみたものの、どこにも売ってなくて結局Amazonでポチった経験が何度もあります。
書店がマイナー漫画を仕入れないと、我々はAmazonで紙書籍か電子書籍をポチるしかなくなりますので、それでますますPOSデータ上でのマイナー漫画の売り上げが下がって、ますます書店がマイナー漫画を仕入れなくなるという悪循環が起きている可能性があります。

これが、マイナー漫画についてはPOSデータと実情が乖離しかねない理由です。
ですので、データについて検討する時は、それらの事情を考慮に入れる必要があります。

さて、これまで紹介したサイトのデータを組み合わせる事で、ほとんどの漫画の売り上げデータが分かるようになりましたね。

ビジネスとしての漫画家について考えてみる

データが集まった所で、ここでちょっと漫画家というビジネスについて考えてみたいと思います。

先ほど書いた通り、私は漫画家という夢からやんわりフェードアウトして、漫画と関係ないビジネスについて色々考える時期がありました。

ビジネスと言っても、結構大変なものです。
例えば、スタートアップは未知の市場を開拓しますが、やってみるまで分からなかったけど、実は実際にはそこには市場なんて無かった(お客さんがいなかった)と判明して失敗したりします。
逆に、すでに有望だと分かりきっている市場だと、沢山の競合他社が出現しますから、熾烈な争いに巻き込まれます。

しかも、個人でひっそりやっていくという訳には行きません。スタートアップは短期間で、数十倍、数百倍の勢いでガンガン成長する事が求められます。(起業家がしたくなくても投資家やベンチャーキャピタルからせっつかれます)無茶をするわけですから、色々と疲れます。

そういう風にムチャクチャ頑張って、起業家の資産を一気に数十億、数百億に増やしちゃおうというのがベンチャーなやり方です。ちなみに大抵は失敗します。

正直に言って、そもそも私はそんな数百億の大儲けは求めてません。
ただ、死ぬまで問題なく暮らしていけるつつましい額さえあれば十分です。

では、死ぬまで暮らせる金額っていくらなんだっけ?というと、

まあ3億円も売り上げれば死ぬまで暮らせるでしょう。

3億円売り上げると、所得税などで半分くらい引かれますから、1億5千万円ほどになります。
そこから念のため3千万ほど手元に残し、残りの1億2千万を世界インデックスファンドとかに投資します。
世界の資本主義がマトモに機能している限り、世界経済は成長し続けますから、少なく見積もっても3%くらいの利回りが期待できます。

1億2千万の3%は360万円で、ここから税金が2割引かれて288万円の不労所得が毎年得られる事になります。

年間288万円あれば、まあ一人なら暮らせるんじゃないでしょうか。足りなければ多少なら元本に手を付けても問題ありません。

という訳で、目標は3億円です。
3億円…成功したベンチャーとかの話からするとつつましい金額ですが、とは言え簡単に稼げる金額でもなさそうですね。

ビジネスに目を向けていると、まったく儲からないか、あるいはうんざりするような競争に巻き込まれるかの2択に段々疲れてきました。

そんななか、ふと漫画家について考えてみると、漫画家というビジネスは何か変だなという事に気付きました。

漫画ビジネスと言うのは結構市場規模が大きいですが、あまり熾烈な競争や拡大合戦が起きてないですよね。
だって、漫画家って大抵個人事業でやってますよね。
でも漫画が有望な市場を持ってるんだったら、例えば漫画制作会社みたいなのが現れて、沢山の社員を雇って漫画制作をスケールさせて、既存の個人漫画家を駆逐したりしてもおかしくないじゃないですか。巨大なイオンが地元の商店街の店を駆逐するような感じで。

でも、現実にはそうなってません。
何故なのか考えてみると、そもそも漫画を描けるような人はごくごく一部に限られるからでしょう。
イオンで働ける人はいくらでも集められるでしょうが、漫画を描ける人はそう簡単に集められませんし、例えば人を100人集めれば鬼滅の漫画の生産スピードが100倍になるなんてワケありません。

つまり、漫画家業は”スケールしないビジネス”という事です。まあ、アシスタントを雇えば背景とかは描いてもらえますが、基本的に人物は一人の漫画家が全部自分で描かないといけないですし、お話を沢山考えるのも限界があります。
スケールしないからこそ、熾烈な競争が発生しません。いや、熾烈な競争はあるっちゃありますが、ベンチャー企業が巻き込まれるようなビジネス的なムチャクチャな競争までにはなってません。

ここまで考えてみると、個人の力で3億円と言うボチボチの金額を狙うのに、漫画家というのはビジネスとして考えても結構面白いかもしれないなという考えに至りました。

漫画家を夢にしていた頃は「数字なんてクソくらえ」みたいなクリエイター的な気持ちを持っていた気がしますが、一旦フェードアウトして冷めた目線で考え直してみると、ビジネス的な目線で漫画家ビジネスを考えられるようになりました。

担当編集とかから「数字について考えろ!」と言われると、それは反発してしまいそうですが、自主的に考えてみるのはやはり気の持ちようが違ってきます。

さてさて、では早速、漫画で3億円稼ぐというのはどういう話になるのか考えていきましょう。

基本的に、漫画家が得る収入源は、漫画雑誌に掲載した時の原稿料と、単行本が売れた時の印税収入の2つです。

原稿料がいくらか?というと、漫画雑誌の連載だとページ当たり8000円~で、Web連載だと5000円~くらいだそうです。

商業漫画の1ページの原稿料っていくら?

という事は、漫画雑誌で週刊連載16ページを月4回描く場合は、一か月の原稿料は51万2千円~となります。月刊連載40ページなら、32万円です。

しかし、漫画家は自腹でアシスタントさんを雇って原稿を手伝ってもらう必要があります。

漫画家がアシスタントを雇うお金は基本自腹だというお話

週刊連載だとアシスタントの人数は大体3~5人で、大体毎週3~5日勤務だそうです。日給は一人1万円くらいだそうです。

まあ、仮にアシスタント人数が4人で週4日勤務で、一人日給一万円だとすると、一週間で16万円かかります。
1週間の原稿料は16ページ×8000円で12万8千円…。
あれ…この時点で毎週3万2千円の赤字ですね…。

しかもこれに加えて、自分の生活費も必要ですし、アシスタント4人分の机が置ける広い家か事務所の家賃もかかります。アシスタントさんの食事や交通費、寝床も必要になります。

漫画家は原稿料だけだと大赤字になる事が分かりました!

【漫画】『新世界より』コミカライズ担当「描けば描くほど赤字。原稿料上げて」の声届かず… ほとんどが単行本収入がないと赤字!?

いや、必ずしもそうだとは限りません。ちょっとソースが見つからないのですが、どこかでアシスタント無しで月刊連載されている漫画家さんの話を見た事があります。

アシスタントを雇わずに全部自分で描けば、まあ自分の生活費くらいは稼げそうです。
アシスタント無しで漫画描くとか可能なのか?というと、今はデジタル作画で結構効率化できますし、なんなら背景も素材画像で済ませられる場合もありますから、不可能ではないかもしれません。

まあ、諸々を鑑みて、とりあえず原稿料は諸々の経費に消えてしまうという事にしましょう。

となると、印税収入だけで3億円稼がないと行けないという事になりますね。

さて、漫画家の印税収入は、一般的にコミックスの値段の8~10%と言われてます。そして、コミックスの値段は400~800円くらいですね。

とりあえずここでは1冊辺り50円の印税がもらえるとしましょう。
という事は、3億円稼ぐには、一生の内に600万部の単行本を売る必要があります!

600万部!

どうですか?可能だと思いますか?

ちなみに鬼滅は単行本1巻あたり652万部売れてます。単行本出すたびに3億円の印税が入ってる事になりますね…。

そう考えると600万部ってハードル低いかもと思うかもしれませんが、鬼滅は日本のてっぺん取ってる漫画の話なんで…私には鬼滅は描けません。

現実について話をしますが、今だと下手すると単行本1巻あたり1万部でヒットと言われかねない時代なのが実情のようです。

3万部で大大ヒット、5万部でスーパーヒット、10万部で超ヒット、それ以上は神の領域?

データを見ていると、大半の漫画は1万部行ってないっぽいです…。
「ウソでしょ!?」と思う方は、先ほど紹介した漫画・マンガ・コミック 売上ランキングBEST500のサイトの週刊漫画ランキングを見てみてください。大体500位で3000部くらいです。これより下の漫画もいっぱいあるハズです。
上位の漫画はそりゃ売れてますが、ほとんどが超メジャーなジャンプ漫画とかです。というかぶっちゃけると鬼滅と呪術廻戦と約束のネバーランド辺りが上位を占めてます。

さて、仮に私が描いた漫画が単刊(単行本あたり)1万部売れるとしましょう。
すると私は一生で単行本600冊描くハメになります!
ちなみに手塚治虫全集が400巻です。

無理に決まってんだろ…。

では、もう少し楽観的な見通しとして、単刊3万部売れるとすれば、一生で200冊描く必要があります。
毎週16ページ描いて単行本200冊にするには、2500週間、50年かかりますね…これでも無理じゃん…。

じゃあ、単刊10万部売れればどうだ!?
これなら一生で単行本60冊描けば済みます。毎週16ページ描けば15年で終わります。
まあ…かろうじて可能なレベルでしょうか。

つまり、漫画家と言うビジネスは、単刊1万部や3万部では商売として難しく、単刊10万部くらいコンスタントに売り上げを出せればまあなんとか割に合うものになると言えるでしょう。

漫画家ビジネスが成立するのはどういうレベルの漫画?

さて、単刊10万部を目指すとして、単刊10万部ってどれくらいのレベルの漫画を描けば達成できるんでしたっけ?

いざ、データを見ながら検討してみましょうか。

あらかじめ断っておきますが、ここからは実際の漫画の部数に触れていきますが、部数を持ち出して作家や作品の優劣を競うような意図はありません。作品の良さと売り上げには何の関係も無い事は重々承知しておりますし、この記事を読む皆さんにもその辺ご承知おきしていただけるとありがたいです。

先ほども書きましたが、鬼滅は単刊652万部、これは神を超えた界王神レベルです。

ワンピースは単刊490万、ドラゴンボールは単刊619万、NARUTOは単刊347万、スラムダンクは単刊387万部、進撃の巨人は単刊303万部、この辺も伝説の界王神レベルです。

死ぬほど売れた漫画はこの辺にして、普通に売れたレベルの漫画を見てみます。

寄生獣は130万、ケロロ軍曹は45万、魔法陣グルグルは75万、よつばとは119万、ゴールデンカムイ62.5万。ダンジョン飯50万部くらい。この辺も神レベルですね。

まあ、この辺くらいまでの漫画なら、公表されてる部数から簡単に計算できますが、単刊10万部くらいの漫画だとなかなか公表されないので、さきほどのデータサイトとかを見る必要があります。

公表されてない部数についてブログであげつらうのは申し訳ないですが、単刊10万部のイメージを掴むのにどうしても必要なので、ご了承いただきたいところです。

単刊10万部クラスの漫画というと、キルミーベイベー(単刊15万)、のんのんびより(単刊13万)、はたらく細胞BLACK(10万)、ハチワンダイバー、巴マミの平凡な日常、琴浦さん、モブサイコ100、ぼくらの、東方鈴奈庵、超ヒット漫画の数々…。

単刊10万部を目指すには、このレベルの漫画を描かなければならないという事です。
メチャメチャ大変だよ…。

ちなみに単刊3万部や5万部の漫画も列挙しようとしてみましたが、なかなか今あるデータだけではハッキリした数字が分からなくなってくるので諦めました。

あらためて、自分が漫画家としてやっていけそうか考えてみる

さて、どういう漫画がどれくらい売れてるのか、具体的に作品を挙げていった事で大体感じが掴めたでしょうか。
もっと調べたい方はデータサイトを見てください。

では次に、じゃあ自分の漫画ってどれくらい売れそうなんだっけ?というのをシミュレーションしてみましょう。

方法は簡単です。今まで挙げてきた有名作品と、自分が描いた漫画を隣に並べてみて、どっちがいい漫画か脳内でバトルさせてみましょう。

鬼滅の横に自分の漫画を置いてみて、どうですか?勝てませんね。

スラムダンク…ドラゴンボール…ワンピース…勝てませんね。
まあ、この辺は界王神なんで、そもそも勝とうとも思いません。

寄生獣、よつばと、魔法陣グルグル、ゴールデンカムイ、ダンジョン飯…う~ん、面白さでも画力でも勝てる気がしねえ…。
まあ、この辺も神レベルだから…。

キルミーベイベー、のんのんびより、ハチワンダイバー、モブサイコ100…。

この辺になってくると、一部の天才の人なら、「この作品なら私の方が絵が上手いな」とか、「絵は勝てないけど面白さなら勝ってるな」と思える作品が出てくるかもしれません。(失礼な事言ってすいませんが、自分の中でそう思えるかどうかってだけです)

それなら、あなたは単刊10万部を目指せるかもしれないという事です!

「ダメだ…一つも勝てねえ…画力でも勝てないし、面白さでも全敗や…」と言う人もいるかもしれません。(私やぞ)

それでも、諦める必要はありません。己を知る事こそが大事なのです。

画力も面白さも、何も勝てない、何も持っていない自分に気付き、直視する事ができれば、それなら工夫して、戦略を練ろう!という気持ちがきっと生まれるはずです。

生き残るために戦略を練る

自分の身の程を知った事で、「自分には描きたいモノがあるんだから、売れてる漫画をパクるとか嫌だし、数字なんて知ったこっちゃないよ!」なんて甘ったれた考えを捨て去る覚悟ができた方もいるかもしれません。

甘えを捨てて、ガチンコ全力で一冊でも多く売れる漫画を本気で考えないと到達できないのが10万部という数字です。

大抵の人は、10万部売ってる漫画作品に、画力でも面白さでも、何もかも勝てない。自分の武器が無い人がほとんどだと思います。

武器が無いなら無いで、その弱点を補うための戦略を人一倍必死こいて練る必要があります。

まあ、戦略といってもそんなに難しい事ではありません。

要するに売れてる漫画をパクるという事です。

パクると言うと語弊があるかもしれませんが、例えば最近だとメシ漫画が流行ってますよね。もはやジャンルと化してるレベルで沢山のメシ漫画が生まれています。

それから、まんがタイムきららの日常系漫画も、もはや一つのフォーマットと化してます。

で、あれば、例えば日常系メシ漫画を描いたら売れるんじゃね?みたいな話です。

いや、分かります。クリエイター目線で考えると、あまりに浅はかでしょーもないアイデアに見える事でしょう。

まあこれはあくまで例ですし、それに、才能が無いなら無いで売れるためにはそれくらい必死こかないといけないのかもしれないというモノの例えです。

描きたいものがあるなら売れてから自由に描けばいいという考え方もあるかもしれません。

メシ漫画とかって、もちろん描きたくて描いてる人もいるでしょうが、どちらかというとビジネスとして売れないと行けないから流行ってるメシ要素入れたって作品が多いんじゃないでしょうか。
普通にファンタジー要素だけで充分面白い、”ダンジョン飯”でさえ、メシ要素が入ってるわけです。ダンジョン飯みたいな天才でさえそうしてビジネス目線で戦略を練って努力しているというのに、ダンジョン飯に画力も面白さも勝てない凡人はもっとメチャメチャ戦略を練りに練りまくらないと生き残れない事は明白です。

私は完全に実情を知らない人間なので推測ですが、最近は昔よりも、編集部主導で漫画家に売れそうな漫画を描かせる、”企画モノ漫画”とでもいうような漫画が増えているような気がします。

描きたいものを描ききって、次回作のアイデアが浮かばないみたいな漫画家さんに、例えばメシ漫画とか、最近はスピンオフ漫画とか流行ってますが、それとか、コミカライズとかを描かせたりしてる…ような気がします。

また、メチャクチャ天才なんだけど、絵の部分ををもっと一般受けしそうな人に変えたらさらに爆発するかもしれない。あるいは同時連載数を増やしたいけどもう一本漫画描くのは限界があるし、みたいな感じで、漫画家に原作を書かせて、作画担当を付けるというケースもありますね。
たとえば天原先生という天才がいますが、天原先生の「33歳独身女騎士隊長。」は結構ヒットしてるみたいですが、さらに天原先生が原作、masha先生が作画担当した、「異種族レビュアーズ」は単刊15万部の超ヒットでアニメ化もされました。
また、岡本健太郎先生は「狩猟ダイアリー」で単刊10万部の大ヒットを出しましたが、さらに岡本先生が原作、さがら梨々先生が作画担当した、「ソウナンですか?」もやはり単刊10万部の大ヒットで、こちらもアニメ化されました。
搾精研究所さんDLSiteで搾精病棟をメガヒットさせました。

搾精病棟での作者の利益は5千万円だそうです。すごいですね。DLSiteはたしか作者の取り分が販売額の50%だったと思います。売れた数が同じでも、商業漫画の5倍儲かる事になりますね。
しかし、その分誰でも販売できるので、競争は熾烈になっていると思います。

そんな搾精研究所さんが原作、丈山雄為先生が作画担当で、「淫獄団地」という作品をニコニコ静画で連載してます。
これはまだ単行本が出てませんので部数は分かりませんが、すでにtwitterではこれ実質ライダーじゃん!みたいなネタで大バズりしてますし、下手すると5万部…いや10万部出てしまう可能性も無きにしも非ずです。

ただし、こんな風に原作と作画担当に分かれてしまうと、印税の取り分も山分けになってしまいますね。

ちなみにワンパンマンの場合は編集部主導とかでなくて、村田先生がワンパンマンを描きたくてしょうがなくなって、ONE先生に描かせてくださいとお願いしたみたいな経緯らしいです。(ワンパンマンは単刊100万部です!)

という訳で、編集部主導というか、ビジネス主導な雰囲気のする戦略的な漫画が最近増えてるという話でした。

というのも、近年は出版不況と言われて久しく、実は漫画の平均的な売り上げと言うのは90年代をピークに段々落ちてきているようです。
全体のパイが減っているのに、逆に漫画雑誌はどんどん増えて、漫画の作品数が爆増してるような気がします。

そうなれば、個々の作品の売り上げはガンガン下がる事になりますよね。
最近はみんなが同じものを持て囃すよりも、それぞれの人が自分の好きなものを求める風潮で、嗜好が細分化してるので、漫画も細分化しているという事かもしれません。

出版社だってビジネスとして漫画を出版してるわけですから、出版が不況な現状では危機感を抱いて、もっと漫画家にビジネス主導でコンスタントに売れる漫画を描かせなければ…!と思うのも当然の事です。

ですから今後は、ますますビジネス的に企画された感じの漫画が増える事が予想されます。

これからは、漫画家が自分の描きたいものを好き勝手に描いていく事はますます難しくなっていく…可能性もあります。

個人的な印象ですが、ビジネス主導の企画モノ漫画は、単刊100万部みたいなウルトラヒットは狙えませんが、単刊10万部くらいの超ヒットくらいならちゃんと戦略を練ればワンチャンありそうな気がします。

漫画を沢山読んで部数勘を鍛えよう

ヒロユキ先生の「単刊5万部超えてる漫画は全部読もう!」という話を読むまで、私は漫画の部数なんてまったく気にしてませんでした。

上で書いたように、かなり頑張って探さないと漫画の部数データなんて見つかりませんしね。

今まで私は、漫画について、自分が好きかどうか、という基準しか持ってませんでした。
まあ、ピュアと言えばピュアかもしれません。

しかし、こうしてデータを洗ってみて分かったのは、”自分が好きだった漫画は大抵売れてない”という事実です。(たまに、自分が思ってたよりメチャメチャ売れてたケースもあるけど)
自分が大好きなあの漫画やこの漫画が(具体的な作品名を出すのは避けました)、データを見る限り、まったく商売として成立していない…っぽい…。

これはつまり、仮に私は自分の”好き”に基づいて好き勝手に漫画を描いたとしても、ビジネス的には失敗する可能性が高いという事を示しています。

しかし、私はそれなりに漫画を見る眼はあるつもりです。
自分の好きな漫画が売れてないからといって、自分が駄作マニアという事ではないでしょう。
数字と言うのは便利ですが、数字に洗脳されてはいけません。フォロワー数に洗脳されてる人達の二の舞になってしまいます。
”漫画の部数≠その漫画の良さ”です。いい漫画だからと言って売れるとは限らないという事でしょう。

ヒロユキ先生は、「単刊5万部出てる漫画は明確な魅力、売りを持っている」と仰ってます。

つまり、売れている漫画は、”良さ”というよりは、”売り”を持ってます。
”売り”というのは、私が思うに、漫画を読んだことが無いド素人でも一目で分かるような魅力の事だと思います。
「漫画リテラシーの高い一部の”分かってる”読者にだけ売れればいい…”良さ”だけがあればいい…」といくら作者が思っても、そういうマニアと言うか高リテラシー読者は、ほんのごくわずかの人数しかいません。そんな超ニッチに訴求しても、売り上げが1万部超えるのは難しいかもしれません。5万部みたいなヒットを出すには、漫画読んだことない人(例えば自分の両親とか親戚を想像してみよう)でも分かるような分かりやすい”売り”がとにかく必要になってきます。

これがアートの絵画だったら、ごく一部の高リテラシーなお金持ちの顧客や批評家だけターゲットにすれば済むかもしれませんが、商業漫画は絵画と違って大衆に向けて売るものですから、そういう訳には行きません。

優秀な漫画は、素人でも分かる明確な”売り”と、モノの分かってるマニアだけが分かる”良さ”の両方を備えています。

メシ漫画のメシ要素は分かりやすい”売り”になります。食欲というのは人間の三大欲求の一つですから、誰にでも理解できます。

ダンジョン飯は、メシ要素と言う分かりやすい”売り”を備えつつ、メチャクチャ設定が練り込まれたファンタジーという”良さ”の両方を持ってます。どっちが刺さっても読者は作品が好きになれます。

アニメの話になってしまいますが、例えば「エヴァンゲリオン」なんかは、マニアは難解な設定やら世界観やらを考察して”良さ”を堪能してますが、素人だってメチャクチャかっこいいアクションシーンや萌えるヒロインキャラという”売り”で楽しめます。

けものフレンズ」のアニメも、マニアはポストアポカリプスっぽい雰囲気を考察してアレコレ言ってましたが、素人はサーバルちゃんの「すっご~い」とかのミーム要素だけでもたのしめてました。

まあそんなわけで、ヒロユキ先生が仰るように、売れている漫画を読みまくって”良さ”と”売り”を一通り頭に入れれば、あなたの漫画戦略のスキルは向上していくでしょう。

さらに、ヒロユキ先生は、「漫画を読んだらその漫画の部数も調べる」と書かれてます。漫画とその部数はセットで突き合わせて考える事が重要だという事です。

私はtwitterでかなり色んな人のイラストを見ます。
ツイートにはRT数やライク数が表示されてますので、イラストの内容とRT数がセットで脳にインプットされていきます。
すると、イラストを見ただけで「このイラストだと大体何RTくらいされてそうだな」というのが知らず知らずの内に見当が付くようになってきます。

ですから私はなんとなくtwitterに入り浸ってただけで、特に狙ったわけでも無いのに、自分がtwitterに投稿した漫画が数万RTを叩きだした事が何度もあります。
色々見てるだけで、なんとなく”感じ”が掴めてくるという事です。

ヒロユキ先生が言うのは、漫画でもそうしろって事です。
漫画の内容と部数を紐付けて頭にインプットしていく事で、漫画を読んだだけでそれが何部くらい売れてそうか見当が付くようになっていきます。そしてゆくゆくは無意識的に”感じ”が掴めるようになってきて、自分が描く漫画の内容も自然と売れるものになっていく…かも知れないという事です。

私も今までは漫画家という商売について、子供の夢みたいなふんわりとした印象しか持ってなかったのが、上で挙げたようなデータサイトの売り上げを眺めてるだけで、いきなり解像度が上がったというか、漫画家と言う仕事が夢でなく現実のビジネスとして冷静に見れるようになった気がします。

「漫画家やめたい」という匿名はてなダイアリーについて

先ほどリンク貼ったねとらぼのインタビュー記事で、最近twitterで漫画家についてのネガティブな情報が拡散されてて、漫画家は儲からないというイメージが付き始めてる問題をヒロユキ先生が憂慮されていました。

そういうネットの漫画家儲からない説の有名な記事の一つに、「漫画家やめたい」というタイトルの匿名はてなダイアリーの記事があります。

漫画家やめたい

これは匿名記事なので、内容の真偽はハッキリしませんが、結構迫真な内容なので、ホントかもしれません。
仮に真実だと仮定して内容を検討してみましょう。

これによると、ジャンプだと新人の単行本は3万部刷られるようです。
正直言って3万部は凄い数字だと思います。データ的に言って、ヒット作の部数です。さすがジャンプですね。
しかし、20年前だったら同じ条件でも10万部刷られたそうです。10万って今だと超ヒット作のレベルですね。恐るべし。それと同時に、ピークから7割も部数が減ってしまうという、現在の出版不況の深刻さも物語ってます。

さらに、とある月刊誌では初版の部数は6000部という情報も出ています。
6000部…少なっ!と思うかもしれませんが、正直言ってデータサイトの情報を眺めてると、大抵の漫画はそんくらいだろうなという印象があります。その印象を裏付けるような情報です。

この漫画家さんは、たった3万部で3巻までで打ち切られたら、印税は360万円しかもらえないし、今までの苦労がまったく割に合わないと嘆かれています。

上の方で書いた通り、漫画家を商売として考えると、10万部は出ないと割に合いません。5万部でまあ一応食えはするレベル、3万部だとまあ今は辛抱してここから当てに行かないと厳しいレベル、1万部だと食うのが不可能になってくるレベル、まして6千部となると…。
そして大半の漫画が6千部以下だと推測される現実…。

現実は厳しいと言わざるを得ないでしょう。

ちなみにヒロユキ先生はインタビューで、「単行本が5万部なら余裕のある生活ができる、3万部だと物足りないけど打ち切りの心配はないレベル、1万部だと出版社は赤字」という情報を語られています。

連載打ち切りと言うと、漫画家からは恨まれるでしょうが、部外者がこんな事を書くと角が立つかもしれませんが、売れない漫画を打ち切るのは、ある程度は”お互いのため”かもしれません。

単行本が数千部では、事実上、食っていけません
ある程度若い内に見切りをつけて、転職を考えるのも、作家のためでもあるかもしれません。
こんな事を書くのもつらいですが、漫画家をビジネスとして冷めた目で見れば、そう結論付けざるを得ません。

しかし、この匿名ダイアリーでは「今まで漫画の事しか考えてこなかった職歴の無い35歳の社会不適合者が、どうしていけばいいってんだ?」というような痛切な訴えが書かれてます。

非常に難しい問題と言わざるを得ません。
とは言え、漫画家ならアシスタントに転向するというパターンがありますから、食いっぱぐれるという事は無いのかもしれません。(門外漢なので詳しい実情は知りませんが)
というか、よく聞く話だと、まずアシスタントとして弟子入りして、そこから漫画家を目指すというパターンですよね。

副業、あるいは趣味としての漫画家

大抵の人が数千部しか出ないのが普通の漫画家と言う商売、これ一本でやっていくのはリスクが高いと思わざるを得ません。

という訳で、漫画とは別にちゃんと本業を持っておいて、漫画は副業、あるいは趣味で描くというパターンも考えられます。

漫画家さんたちが語る『勤め人をやめて漫画家を目指すのは止めたほうがいいぞ」というお話

小説家とかだと、作家業が軌道に乗るまでは普通に仕事してた人が結構多いです。漫画家も、売れるまでは他の仕事をしていたという人もチラホラいる気がします。

しかし、漫画家が本命で、売れるまでは腰かけで他の仕事をしようと言う場合、どういう仕事をするかはよく検討する必要があるでしょう。
つまり、残業が多いような仕事だと、漫画を描く時間なんて無くなるからです。

漫画とは別に本業があるなら、売り上げなんてまったく気にせずに、完全に趣味として、自分の好きなように描いちゃうという考え方もあるかもしれません。
今なら別に商業出版しなくても、twitterとかで沢山の人に自分が描いた漫画を読んでもらう事は可能です。
完全に自分の趣味の変態性欲に忠実に基づいたニッチなエロCG集が、DLSiteでそれなりに売れてたりするなんて事もあります。

おわり

子供の頃に漫画家を夢見た自分が、一旦挫折してみて、むしろ一周回ってビジネスとしての漫画家業について冷めた目で見て、その魅力について考えてみました。

世の中の漫画を、その出版部数データと突き合わせて考えてみると、新しい視野が広がるという話でした。

漫画家ビジネスは、ビジネスとしてスケールさせることが不可能なので、個人でも一発当てられる夢のある世界という事が分かりました。

しかし、他の仕事と同じくらい漫画家が割に合うと言えるには、600万部を売って3億円を稼ぐ必要があると分かりました。
しかし、データを見る限り単刊数千部しか出ていない漫画家がほとんどらしいというのが現実でした。

結論としては、漫画家として一発当てるのは、他のビジネスで一発当てるのと同じくらい難しいかもしれないと言えます。

ですが、色んな漫画を読んで、データを突き合わせて、部数勘を鍛えてしっかり戦略を練って漫画を描く事で、ひょっとすると単刊10万部くらいは狙えるかもしれないという話もしました。

とは言え、余りにもビジネス目線で割り切って、自分では大して描きたいとも思ってない漫画を苦労して描いて、そこまでするくらいだったら普通に他の仕事をした方がマシ…という事もあるかもしれません。

私としては、あらためてこの記事を書きながら、単刊10万部、生涯600万部というハードルの高さにまたもや挫け気味なので、もしやるとしたら完全に趣味として漫画を描いてみつつ、色んな漫画を読んで部数勘を鍛えてみようかなと思いました。

記事を書きながら色々調べていて印象的だったのは、電子コミックの売り上げが紙の漫画の売り上げを上回っているという事実です。これからますます電子書籍の売り上げ割合が増えていく事でしょう。
そうなった場合に、じゃあもう電子だけで売ればいいんじゃね?という話が出てくることが予想されます。例えば連載はWebだけで行って、単行本も電子だけで出版する作品が出てくるかもしれないという事です。

そうなった場合に、”漫画を白黒で描く必要ってあるんだっけ?”という話さえ出てくるかもしれません。
敢えて紙での出版を諦めて、漫画をカラーで描いちゃうことで他の漫画とは差別化した魅力を提示する。みたいな戦略も考えられるかもな。と思いました。
ちなみに、すでにジャンプ漫画は電子書籍限定でカラー版の漫画も出してます。
まあ、カラーと言ってもキンドル端末だと白黒でしか読めなかったりしますけど。

話が逸れましたが、そんなわけなので、漫画家を目指してる方もそうでない方も、是非とも色んな売れている漫画を読んで、データと突き合わせて考えてみるという事をやってみてはいかがでしょうか。