10月16日に、「閃光のハサウェイ」がアマゾンプライムビデオなどの各種配信サービスで配信開始されました。

ほとんど誰でも観れる状態になったというわけで、もうネタバレとかも気にしなくていいだろうと思って、記事を書いてみようと思いました。

閃光のハサウェイの奇妙な成り行き

閃光のハサウェイが映画館で公開されたのは、2021年6月11日です。

実は、本来は去年の2020年の7月23日に公開される予定でしたが、コロナ禍による感染拡大防止などの観点から公開が延期されました。

http://gundam-hathaway.net/news.php?id=17863

その次に上映予定だったのは2021年5月7日でしたが、コロナの影響はますます悪化して緊急事態宣言が再び発令される事になり、上映はまたもや延期になりました。

http://gundam-hathaway.net/news.php?id=18647

その次は、今度こそ2021年5月21日に公開するぞ!と意気込んでましたが、なんと緊急事態宣言の延長が発表されてしまい、3度目の延期です!

http://gundam-hathaway.net/news.php?id=18699

そんでもって、最終的に6月11日にとうとう上映開始できました!というかこの日も普通に緊急事態宣言出てたんですけど、サンライズもいよいよ我慢の限界に達して「うるせ~!知らね~!」ってキレちゃったというところでしょうか。

http://gundam-hathaway.net/news.php?id=18743

閃光のハサウェイ、上映してみてどうなったか?というと、空前の大ヒットとなりました!
興行収入は10/11時点で22億円を突破しています。

https://news.yahoo.co.jp/articles/e1e281bd047cf28d9f892409efaee5a006921c49

鬼滅の興収が400億円とか、君の名はが400億円とか、シンエヴァが100億とか、竜とそばかすの姫が60億円とか聞くと、22億円って大したこと無くない?と思うかもしれませんが、そういうアニメ映画が異常なだけで、22億円は大ヒットです。

今までガンダム映画で一番ヒットした作品の興収は「機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編」の23億円でした。
つまり、閃光のハサウェイ22億円というのは歴代ガンダムの長い歴史の中でいきなり出てきてトップレベルに食い込んでいるという事です。

閃ハサは上映開始から4ヶ月経った現在もロングラン上映されているので、最終的に めぐりあい宇宙編 に追い付く可能性も無くはないです。

それにしても、上映開始から4ヶ月しか経っておらず、いまだに上映中であるにも関わらず、もう配信が開始されてしまうのは、嬉しいですけどやけに早いなあという気がしますね。

閃ハサの一般販売ブルーレイが11/26に発売される事が発表されたのが、9/19です。

https://www.famitsu.com/news/202109/20233435.html

ブルーレイ発売より先に10/16に各種配信サイトで配信開始される事が発表されたのは10/2です。

という事は、予約特典などにつられて一般販売ブルーレイなどを予約した人の中には、「ブルーレイより先に配信されるなんて、それを知ってたらブルーレイは買わなかったのに!」と思った人もいそうですね。

しかし、閃ハサでは他の映画には無い特殊な事情も絡んでます。

閃ハサは、上映開始と同時に映画館でブルーレイが売られていたのです!(購入には映画の半券が必要。つまり一度は映画を観ないと買えない)
そんなのって前代未聞じゃないでしょうか?

だって、普通は映画館で観た映画をもう一回観たいと思ったら、再び映画館に観に行く必要があります。
でも、映画館でブルーレイを買えるなら、何度も映画館に行かなくても家で10回でも100回でも観れちゃいます。映画館にとっては大損になる可能性があるので、普通に考えると不可能な施策です。

では何故閃ハサでそれが可能だったかと言うと、今までに同じような事をやってた実績があったからではないでしょうか。

例えばガンダムUCでは、OVA作品にもかかわらず、新作が出るたびに映画館で上映するという事をやってました。

OVAだけど、劇場で先行上映しますよ!さらに劇場だけで先行でブルーレイも売りますよ。一般販売のブルーレイは一ヶ月後になります。みたいな感じでした。

http://www.gundam-unicorn.net/ova/info/index.html

OVAは普通の映画より尺が短いので、その分値引きしますという事で、一律1200円の特別料金でした。これなら普通の映画のレイトショー料金よりも安いです。
しかし、後の方のエピソード7になると1600円くらいまで値上がってきます。(上映館の数もエピソード1では5館だけだったのがエピソード7では35館まで増えてる!)こうなると、通常上映よりは安いけど、レイトショーの時間だと割高になっちゃうというねじれが生まれます。

私の想像ですが、このガンダムUCの時に映画館は劇場限定の先行ブルーレイ販売で結構美味しい思いをしたのではないかと思います。

本来、ブルーレイ販売の旨味は映画館にはまったく関係ありません。ですが、劇場の売店が独占して先行ブルーレイ販売できれば、本来アマゾンや書店が得るはずだったブルーレイ販売の利益の大半を奪えます。これなら映画館リピーターを失う損失を補えるかもしれません。

閃ハサはOVAでなく映画作品であるにも関わらず、ガンダムUC上映と同じ建て付けを実現できたのはそういう理由かもしれません。

閃ハサもガンダムUCと同じく一律料金を採用していますが、一律1900円と言う、安い方ではなく通常と同じかむしろ高い方に料金が振れてます。
ガンダムUCは尺が短いから安かったけど、閃ハサはフル尺なんだからこの値段だ!という理屈ですが、映画の日やレイトショー割引、子供料金などが一切通用しないのは理不尽な気もします。

まあこれもブルーレイ同時販売によるリピーター損失の埋め合わせの条件の一つだったのかもしれませんね。

まあそんなわけで、劇場でブルーレイが売ってたので、配信開始は実質ブルーレイ発売から4ヶ月経ってるので必ずしも早すぎるという事も無いかもと言う話です。

さて、閃ハサが上映開始してから、ネット上でマフティー構文だの連邦に反省を促すダンスだの、あとビリビリで閃ハサMADが量産されてるだのの話題にも言及したいところですが、脇道にそれてるといつまでたっても本題に入れないので割愛します。

当初はまったく興味が無かった自分

今となってはメッチャ好きな閃ハサですが、上映開始時点ではまったく興味がありませんでした。

私は子供の頃から結構ガンダム好きでしたが、逆シャアを観た限り、ハサウェイというキャラは全然好きになれませんでした。

ですので閃ハサが映画化と聞いても、「なんでハサウェイなんかが主人公の映画を観なきゃいけねんだ」と思ってました。

twitterを見てると「閃ハサ観る前に逆シャアを予習した方がいい!」という意見を多く見かけますが、先に逆シャア見ちゃうとハサウェイが嫌いになってもう閃ハサ観る気無くなるんじゃないかな…とちょっと心配になります。

さて、自分の周囲で閃ハサを観た人たちの間でやたら評判がいいので、そんなに面白いなら観ない訳にもいかんかな~と思って、しょうがねえな!と映画館に観に行きました。

結果としてはメッチャ面白くて、ブルーレイも買って帰って家で10回くらい観ました

正直言って、ここまで中毒的に繰り返し観てしまったアニメというのは個人的にはあまり例がありません。

どうしてこんなに面白く観れてしまうんだろう?どうもこれは、今までのガンダムアニメとは何かが違う気がする…自分なりにその理由を考えてみて今回の記事にしました。

面白さの秘密が分かれば、今後の自分の創作とかでも活かせるかもしれないと考えました。

ところで、私は最初、閃ハサが3部作の1作目である事に全く気付きませんでした。
タイトルが「閃光のハサウェイ」だけで、”一章”とか付いてないですし、宣伝映像などでもまったく3部作である事に触れられてないからです。

3部作って言うとめんどくさがって観に来ない人がいるからわざと隠してるのかな?と訝りましたが、考えてみるとこれは初代ガンダム映画のオマージュなのかもしれません。

実は、初代ガンダムの映画は当初は3部作の予定では無く、1本に全部まとめるつもりでした。なので、続編が「ガンダムⅡ」、「ガンダムⅢ」なのに最初は「ガンダム」でⅠとか付いてません。

制作サイドが「43話を一本にまとめるなんて無理だ!」つって勝手に1~14話だけで映画を作ってしまったのです。

それで製作サイドと制作サイドで揉めましたが、結局そのまま公開しちゃって、結果としては興収が良かったので正式に3部作の制作が決定したそうです。

https://datagundam.com/memo/gundam-movies/

閃ハサがⅠとか付けてないのも初代ガンダムに倣ってるのかもしれません。

ついでに言えば、もし1作目がコケたら続きを作らないでこっそりフェードアウトしたろ…みたいな目論見も初代に倣ってる可能性も…?

ガンダムオリジンのアニメが途中で打ち切られたトラウマもありますし…(ルウム戦役までだったのでガンダムが出る前に終わってしまった!とは言えちょうど初代ガンダムの話に繋がるので、ガンダム前日譚としては綺麗に終わったとも言えます)

閃光のハサウェイは究極のダバオ観光アニメだ!

さて、ようやく本題に入ります。

閃ハサを何度も観返しながら、「なぜこんなに面白いんだろう?」と考えてた私ですが、twitterでどなたかが「閃ハサ観るとダバオに観光に行った気分になれる」というような事を仰ってました。

それだ!と思いました。

閃ハサは他に類を見ないくらい観光してる感が凄すぎるアニメです!

しかし、何度も本編を観ていても、言われてみるまでその事になかなか気付きませんでした。
何故かと言うと、ハサウェイ自身は観光に浸ってるようなシーンはほぼ無くて、ずっと戦ったりテロの打ち合わせしてたり逃げ回ったりしてるので、メチャメチャ観光してるやんという事が観客の意識に登りづらいのだと思います。

閃ハサは、いくつもの層が重なっている、多層的なアニメだと思います。
まず、一番上の”パッケージ”の層は、巨大ロボット、ガンダムアニメです。
その下の、”テーマ”の層は、ハサウェイ、ギギ、ケネスの三角関係の恋愛です。
さらにその下の、”ジャンル”の層は、クライムアクション、サスペンスです。
それで、一番下にあるベースの層が、観光だと思います。

お話の表層でなく絵面だけを追ってみてください。
メチャメチャ観光してるやん!という事に気付きます。

超高級旅客機で旅行先へ向かう(スペースシャトルなんだけど、特別機だからまるで飛行機のファーストクラスと変わらない感じ。無重力なのに機内食も普通に出てくる)

空港のロビーでジンジャーエールを飲む(全然飲めなかったけど)

パツキン美女に逆ナンされて、ロールスロイスみたいなタクシー?ハイヤーでホテルに向かう。

ホテルに行って32階のプール付き超高級スイートルームでくつろぐ。

植物園(ダバオイーグルセンター)に散歩に行く。

⑥いかがわしい地元のマーケット(パブリックマーケット)をうろつく

⑦フィリピンと言えばジョリビー!ジョリビーで昼食

⑧これまたローカルなお土産物屋で時計とネックレスをお土産に買う。

⑨フィリピン特有の自己主張激しめにデコレーションされたタクシーでホテルに帰る

⑩ホテルのルームサービスで夕食

⑪夜中、パツキン美女と抱き合いながら花火のような綺麗な何か(すっとぼけ)を見る

⑫翌日、食堂で朝食(軍食堂だけど)

フェリー乗り場に着たけど、時間が空いてるから、特に目的もなく周辺をプラプラする(ここがメッチャ旅行あるある)

手漕ぎボートで海を周遊するアクティビティ

クルーザーとセスナで拠点に帰る

いかがですか?こうして見ると思いっ切り観光旅行してますよね?

↓ふたばでこういうコラ画像が作られたようですが、それもやむなしと言った所でしょうか。

アニメ自体は⑮の後も続いて、いよいよハサウェイがクスィーガンダムに乗って戦闘したりしますが、私が何度も繰り返し観てしまうのは⑮のシーンまでで、その後はなんというか、それまでは観光アニメだったのに、そこから急にいつものガンダムアニメにジャンル変わったな…と思ってしまいます。
もちろん最後らへんのパートもとても面白いのですが、私が何故か中毒的に繰り返し観てしまったのは観光パートでした。

本当に、閃ハサの観光パートは今までに味わった事の無い映像体験のように感じます。

さて、そうして見ると気になってくるのが、制作側はどれくらい狙って観光シーンを作り込んだんだろうか?という点です。

閃ハサのリアルな観光感を演出するうえで大きな役割を果たしたと思われるのは、監督たちが2019年3月に実際にフィリピンに行ったロケハンです。

↓こちらのスタッフトークレポートの記事でロケハンについて語られてます。

https://sunrise-inc.co.jp/work/topics.php?id=18876

ハサウェイが訪れる植物園は実際にダバオにあり、村瀬監督はそこで写真を撮りまくった挙句、360度写真も撮影して、さらには環境音まで録音しまくったそうです。

そして、美術スタッフに「植物園の風景は写真みたいに描いてください」と指示出ししたそうです。

私も初めて映画館でそのシーンを観た時は、あまりに緻密に描き込まれていて、ひょっとして写真を加工したのかな?なんて思ってしまいました。

↑なにげにこのツイートによって領事館で「劇中でダバオぶっ壊していいよ」という言質をちゃんと取ってた事実が判明して笑う

しかし、こうして実際の現地の写真とアニメの背景を見比べてみると、たしかにそっくりそのままですが、現実の風景よりメッチャ色鮮やかで美しく描かれています。美術スタッフの超絶技巧とすさまじい手間暇がかかっている事が伺えます。

上の記事によると、桟橋のシーンもロケハン写真そのままで、夜の市街戦シーンも公園にロケハンに行ったそうです。(公園に着いた時には夜になってて公園が閉鎖されてたけど開けてもらったとの事。市街戦シーンは画面が暗いとよく指摘されてますが、単にロケハン時に暗かったからって理由だった可能性…?)

村瀬監督が、現実でロケハンした風景を、そのまま、写真のように描かせたというのは、単にリアル志向という事かもしれませんが、やはり「観客にも観光気分を味あわせよう」という狙いがあったのではないでしょうか。

その狙いがここまでブッ刺さる事まで狙っていたかは分かりませんが…。

というのも、閃ハサは背景の作画も人物の作画も異常にクオリティが高すぎます。
上の植物園の例もそうですが、美術、作画スタッフが頑張り過ぎた結果、リアルにしたいという監督の狙いを超えて、リアルを超越しちゃった映像になってしまったのではないでしょうか。

閃ハサの原作小説では植物園なんて出てこなくて、小説ではあのシーンは車の中でのやり取りだったそうです。
わざわざ原作シーンを改変してまで植物園のシーンを入れたのは、村瀬監督がロケハン観光のたのしかった思い出をそのままフィルムに載せたろうという目論見に違いありません。(ちなみに、何故植物園か?というと、そもそもマフティーは自然環境の保護が目的のテロ集団なので、みんな自然が大好きなんだと思います)

https://ameblo.jp/ejinobouken/entry-12685648072.html

要するに、村瀬監督のロケハン観光体験がそのまま映像に反映されちゃった事と、作画スタッフが現実以上に綺麗な作画をしてしまった事で、観るだけで現実を超越した観光体験ができてしまう映像作品が生まれてしまった…という事かもしれません。

閃ハサのガンプラが売れすぎてる件について

ちなみに、何でそんなに作画に力を入れられるのか?というと潤沢な予算の賜物でしょうが、その予算がどこから来たのか?というと、巨大なガンプラビジネスから生じた利益からでしょう。

閃ハサに潤沢な制作予算が与えられたのは、よりガンプラが一杯売れるような作品を作って欲しかったからで、だから製作側はもっとモビルスーツが派手にドンパチやって活躍してくれる作品を作ってもらえるとてっきり思ってたはずで、まさか現実を超越した観光映像に予算の大部分を注ぎ込まれるとは予想してなかったかもしれません。

ガンダムのアニメというのは商業的な観点から言うと、ガンプラの販促のために作られてる面が大きいハズですが、閃ハサの市街戦ではMSは画面が暗くてハッキリ見えないですし、ヒロイックな主役としてではなく、人間の目線から、まるで怪獣映画の怪獣みたいな描かれ方をしており、一見するとこれを観てもガンプラが欲しくなるという映像には見えません。

これについては村瀬監督はインタビュー記事でこのように語られています。

https://www.gundam.info/news/hot-topics/01_4767.html

「モビルスーツを主役としてではなく、現象として描く。モビルスーツの手前にいる人たちや周囲に起きるリアクションが主役」との事。

たしかに映像を見てるとよく分かる話です。メッサーが着地するシーンでは周りの木々が揺れまくったり、バーニアの火が引火して燃えたりしてました。

他にもビームライフルの粒子が飛び散って消火栓を溶かすシーンなど、とにかく描かれるのは、直接モビルスーツがカッコよくアクションするシーンよりも、モビルスーツが周囲にもたらす被害、影響が執拗に描写されて、結果的にはモビルスーツという兵器の凄まじさを理解させられます。

これがメチャメチャカッコいい!!

というわけで、とてもじゃないけどガンプラが欲しくなる映像には見えないのに、結果的には閃ハサのプラモは爆売れしてて売切れっぱなしで買えません。すごいですね。

閃ハサの世界観が現代に寄せすぎてるような気がする件について

観光云々から話がズレ始めたので話題を戻しますが、閃ハサの特に観光パートでは、SF的な描写がほとんど出てこない点にも注目してみたいと思います。

まず、冒頭でギギがiPadみたいなタブレットで、現代の我々が見てるのと変わらない、Webページを観たりアニメ動画を観たりしてます。これについてはどう考えればいいんでしょうか。

ちなみに、パブリックマーケットのシーンではミヘッシャがスマホケースを物色しています。閃ハサの世界にはスマホもあるらしいです。劇中では誰も使ってませんが。(戦闘やら何かあるたびにミノフスキー粒子がバラまかれてスマホが繋がらなくなるからあんま誰も使わなくなったみたいな裏設定でもあるのかしら)

閃ハサの時代は宇宙世紀105年です。西暦で言えば2105年になります。

2021年の現代から84年も未来なのに、タブレットでWebページなんか見てるもんなんでしょうか。

言っておきたいのは、何も考えてないからそうなってるというわけでは無い事です。村瀬監督はインタビュー記事で、設定考証まわりはかなりシビアに考えたと仰ってます。

つまり、色々考えた結果、現代から何も変えないで行こうという判断を下したはずです。

大体、タブレットの存在なんかにイチイチツッコんでたら、それを言ったら逆シャアは宇宙世紀93年の話なのに、オクトバーさんやチェーンさんはタブレットどころか紙のファイルを持ってます。

逆シャアがタブレットのようなデバイスの登場を予言できなかった事を批判してるわけではありません。そんな事を言っても無意味です。仮に1988年時点で正確に未来を予言してタブレットを登場させていたとしても、別に当時の観客がそれを見てもリアリティを感じたりしてくれるわけでは無いでしょう。

という事は未来がどうなってるかなんて必死こいて考えても無意味というか、どうせ的中しないし、的中したとしても上映時点では機能しない(観客が感心したりするわけでもない)って事です。

だから基本的に現代と同じ水準の技術にしとけばいい、何故なら現代の観客にとってそれが一番違和感なく観れるからです。(例えば攻殻機動隊S.A.Cではガラケーで通話してますが、ARISEではスマホ使ってます)
そういう判断はアリだと思いますし、色々考えた結果そうしたのかもしれません。

ですから、ダバオの植物園やマーケットや公園が、ロケハンで撮ってきた現代の風景をそのまんま使うのも、そうするのが観客に観光気分に浸らせたいという目的に一番叶う(機能する)からでしょう。

閃ハサのSF要素は、強いて言えば例えばハウンゼンは旅客のスペースシャトルでSFっぽいですが、まるで普通の飛行機に乗ってるみたいに描写されてる気がします。

飲み物は無重力でも飲めるような工夫が見て取れますが、じゃあ機内食の食べ物はどうしてプカプカ浮いていかないのでしょうか。(何らかの粘着物によって皿に固定されてるのかな)

他の要素としては、ダバオで乗ったハイヤーやタクシーなどの自動車は、見た目がちょっと未来っぽいのと、エンジン音というよりモーターの音っぽくて、電気自動車らしいのが未来っぽいですね。

そういえばクスィーガンダムを受領するために宇宙へ打ち上げたマフティーのロケットはスペースXのロケットに似てましたね。

まあとにかく、舞台や小物を現代と揃えたおかげで、ロケハンの素材がそのまま使えてリアリティの向上に役立ちましたし、我々視聴者は何の引っかかりも無くダバオの観光に没入する事ができた、という事が言いたかったわけです。

ガンダムシリーズでは宇宙戦艦を拠点にしてあちこち移動するストーリーが定番ですが、閃ハサでは今のところ宇宙戦艦が一切登場しないのもSF感を感じない事に繋がってるかもしれません。

観光シーンからの夜の市街戦シーンのギャップについて

さて、ここまでで散々閃ハサの観光旅行感の凄さについて書いてきましたが、そこに追い打ちをかけて観客に強烈な印象を残すのが、夜の市街戦のシーンです。

観光シーンだけでもすごい閃ハサですが、観光してる感だけなら他のアニメでも体感できるものがあったかもしれません。しかし、そこから戦争被災体験まで味わえるアニメとなるとなかなか無い気がします。

超絶作画のおかげで観光シーンでは現実を超越した美しい風景が見れましたが、市街戦シーンでは現実を超越した恐ろしさ、緊迫感が出ており、映画館で観ていると本当に未だかつて味わった事の無いレベルの映像体験です。

市街戦のシーンまでで、観客は完全に映像に没入していて、魂はすでにダバオに行っちゃってるような状態ですから、市街戦のシーンでは本当に自分がその場にいて逃げ回って死にそうになってるような気分になります。

という訳で、閃ハサの面白さから学べそうなポイントとして、”さんざんその街を観光させてから街を破壊するという流れを見せると強烈なインパクトを出せる”という事が言えそうです。

そういえば、ファイナルファンタジー9はそういう展開を多用してた事を思い出しました。
基本的に、FF9の街はどれもこれも散々観光した後で敵が攻めてきてぶっ壊されます。ブルメシアも、クレイラも、リンドブルムも、アレクサンドリアも、テラもです。
それしか無いんか?とちょっと思ってしまいそうなくらいですが、プレイヤーに与える印象は強烈でした。

こんなにも効果的というわけで、創作をやってる方はこの手法を試してみてはいかがでしょうか。

さて、市街戦シーンの戦闘描写のリアリティについて考えてみます。

世界では今この現在でも国家間や組織間で戦争を行っている地域はあります。
twitterでもよく、敵組織が街にロケット弾を撃ち込んできて、アイアンドームで迎撃する動画が上がってます。現在の現実の戦争はこういう感じだと思います。

閃ハサに出てくるようなモビルスーツは当然ながら我々の現実世界には存在しませんが、18mの機械の巨人が暴れ回る絵面というのは、まるで戦争の恐怖が形を持って具現化したような、とても分かりやすく恐ろしさを伝えてくれます。

ゴジラも戦争や核兵器、津波や地震の象徴としての存在であるという説がよく言われますが、閃ハサの市街戦が怪獣映画っぽいという話に繋がるのかもしれません。

さてここで、市街戦シーンがやたら画面が暗いという話について考えてみたいです。

村瀬監督はインタビューでこのように語られています。

画面が暗い事で、光を使った演出が効果的にできるとの事です。

インタビュー中の画像でも示されてますが、バーニヤが発する光やビームライフルやバルカンのマズルフラッシュの光が機体に当たって照り返しが映ります。

しかも、静止画では無く照り返し方がアニメートするのです。アニメと言ったら普通はキャラの身体とかが動く事ばかり考えてしまいがちですが、光のアニメートで魅せてくれるというのはめっちゃカッコいいです。

実写の映画でも、画面が暗いほどリッチになるという風潮があるとか無いとか。

たとえば、ライティングの美しさで有名な映画として、「ドライヴ」があります。

【プロが選ぶ】この映画の照明がすごい!Vol.1 「ドライヴ」

↑こちらの記事の画像とか見ていただくと分かりますが、ドライヴでは画面が暗いシーンが多く、基本的にキーライトがオレンジ、フィルライトが青で画面を統一しています。

画面が暗い事で、照明を使った演出が映えるという事です

さらに、画面が暗い事で、チープさを誤魔化せるという面もあります。

↓監督もインタビューで仰ってます。

閃ハサの感想で「まるで洋画みたいだった!」というのを見かけたりしますが、そう思うくらい全体的にリッチでリアルな絵作りがされています。

そういう画面に普通にモビルスーツをポンと置いちゃうと、一気に画面がチープになっちゃうのでは…?という懸念があったのかもしれません。

モビルスーツが暗くて良く見えなくすれば、かえってリッチさを失わないで済みますし、モビルスーツを主役じゃなく描きたいという監督の演出意図も伝わりやすくなります。

低予算のホラー映画でも、画面を暗くしてよく見えなくする事でチープさを誤魔化すテクはよく使われます。幽霊もハッキリ見せちゃうと全然怖くなくなっちゃうのでなるべく見せずに済ませたりします。

「それにしたって暗すぎるんじゃないの?モビルスーツだけじゃなく人物も良く見えないが?」という意見もあるかもしれません。

まぁ…それはそうですね。

↓こちらのスタッフトークレポート記事でもこんな話が出てます。

http://gundam-hathaway.net/news.php?id=18829

ぶっちゃけスタッフもメッチャ暗いと思ってたみたいです。

おわり

という訳で、今回の記事では閃ハサがどうしてあんなに中毒性ある作品なのか考えてみました。

結論としては、まず気合が入り過ぎたロケハン取材から生まれたリアリティと、根性から生まれた現実を超越した美しい映像、旅程を丁寧に追いすぎている展開、そして潤沢な制作予算、これらの要素が結集して没入感が高すぎる観光旅行体験が生まれてしまったことが大きなファクターだと思いました。

そして、そうやって完全に映像に没入した状態でこれまたクオリティが高すぎる市街戦シーンに突入してしまう、怖さと迫真性、まるで本当に自分が旅行先で戦争に巻き込まれたような気にさせられる感じが斬新でした。

閃ハサでは観光パートの後もクスィーVSペーネロペー戦のシーンなどがありますが、たしかにそのシーンもすごく面白いですが、自分でも理由が分からず中毒的に繰り返し観てしまったシーンは観光パートだけだったので、今回の記事ではそっちに焦点を当ててみました。

私は閃ハサの小説の方は読んでませんが、「これから先ずっと綱渡り」みたいな台詞があった通り、今後上映される2章や3章ではずっと戦闘シーンが続くのかもしれませんね。
個人的には閃ハサの観光パートこそがブッ刺さったポイントだったので、できれば続編でもメッチャ観光してほしい…むしろハサウェイがあちこち観光するだけのアニメを作って欲しい…。

閃ハサは本来去年に上映されるはずだったのが、コロナ禍の諸々の影響で1年間も上映延期されてしまいました。
しかし、結果的にはあの上映のタイミングがベストだったのかもしれません。

閃ハサ上映のあの時期は、コロナ禍による外出自粛によるみんなのフラストレーションが頂点に達してた時期でした。国内旅行も困難で、海外旅行なんてまったく不可能でした。

だからこそ、理想的なフィリピン旅行の一部始終を見せてくれて、かつてないクオリティで没入させてくれて、まるで本当に自分がダバオに旅行に行った気分にさせてくれる閃ハサに心を動かされた人が多かったのかもしれません。

ついでに言えば、あの時期は東京オリンピックの開催直前で、オリンピック運営のトラブルや不始末が連日ニュースになっていて、オリンピック中止しろ!みたいな世間の声も大きくなっていた時期でした。
ですから、民主主義に絶望してテロによって世界を変えようとするマフティーに共感する人が多かったのでは…なんて。そういう意見もtwitterで見かけました。

という訳で、まあたった4ヶ月前の事ですが、上映当時に観るのとネット配信で今観るのとでは体験が違ってくるのかもしれないなあ。なんて思ったりします。