バーチャル日本プロジェクト」を始めようと思います。
UnrealEngine5を使ってバーチャル上でリアルな日本の風景を再現するプロジェクトです。

今回の記事では、どうしてそういう考えに至ったのか、経緯を書きます。

UE5はゲームに向いてない説

去年の夏、UnrealEngine5のアーリーアクセスがリリースされて、私は興奮して食いついて、去年の下半期はUE5をワチャワチャ触ったり、勉強したり、あるいはUE5を駆使してマンガを描いてたりしてました。

とはいえ、やはりUE5はゲームエンジンですから、最終的にはこれを使って何かゲームを作ろうという目論見があったわけです。

そこで、去年の年末あたりからは、「ビデオゲームの美学」や「ハーフリアル」といったゲームスタディーズ関係の書籍を読んで、ゲーム研究者の考えに触れてきました。「「ついやってしまう」体験のつくりかた」のような書籍も読みました。
私も作りたいゲームは色々とありますが、何しろ1本ゲームを作るのは手間暇がかかるので、なるべくなら的外れなゲームを作っちゃってユーザーに全然たのしんでもらえない事態は避けたい訳です。
ですから、ゲームスタディーズやゲームデザインの書籍を読んで、作るゲームの確度を上げる事で、一見遠回りですが、その実面白いゲームを作るための近道を目指したわけです。

しかし、そうやってゲームの研究をしている内に、事態はあらぬ方向へ展開していきました

私は当初はUE5でどんなゲームを作るべきかを判断するためにゲームを研究していたのに、ゲームについて調べれば調べるほど、”UE5はゲームに向いていない”という事実に目を向けざるを得なくなりはじめました。

UE5が提供するNaniteやLumenなどの新機能は、超リアルなグラフィックスをリアルタイムで描画する事を実現させます。
でも、敢えて言えば、グラフィックスがリアルになったから何だというのでしょうか。それってなんかゲームプレイと関係ありますか?無いですよね。

グラフィックスがリアルになる事は、ゲームメカニクスにとって特に意味がないどころか、むしろ害悪でさえあります。
ゲーム機の性能は昔からどんどん向上してきましたが、それによりゲームのグラフィックスがリアルになって行くにつれて、昔ながらのゲームのお約束な表現などには違和感が生じてきて、ゲームメカニクス自体を現実に寄せるハメになる事を余儀なくされました。

しかし、ゲームメカニクスが現実に近寄った所でそれでゲームが面白くなるとは限りません。たとえばエースコンバットで戦闘機にミサイルが何十発も積み込めるのはリアルじゃない!と言って現実に寄せて4発しか積めなくしたとしましょう。それでゲームが面白くなるのか?ミサイルが4発しか撃てないエスコンなんて面白くないでしょう。
このように、ゲームメカニクスはリアルならいいってもんじゃないのに、グラフィックスがリアルだとそれに合わせてゲームメカニクスも現実に寄せるハメになるという弊害です。

また、現実そっくりの世界はゴチャゴチャしすぎています。
ファミコンのスーパーマリオの画面は大変シンプルで、その事はプレイヤーのアフォーダンス(○○できるかな?)を引き起こすシグニファイアをデザインするうえで有利に働きました。
現実そっくりのリアルなグラフィックスではパッと見で伝わるようなシグニファイアを自然に仕込むのは困難です。(プレイヤーが気を取られるノイズが多すぎる)かと言って、「○○しろ!」と命令するようなチュートリアルだと、ゲームは詰まらなくなります。と言うのも、つい本によればプレイヤーがついついゲームを遊んでしまうのは、プレイヤーが自身で直感する体験がたのしいからだとしており、アレコレ命令されるのは自分で直感する体験と真逆だからです。

ゲームグラフィックスがむやみにリアルになる事は以上のような弊害をもたらします。リアルなグラフィックスはむしろゲームの面白さを奪ってしまうのです。

正直言って私はこの結論を認めるまでに時間がかかりました。
だって、ゲームを作るためにUE5を学んでたのに、UE5がゲームに向いてないならどうすりゃええの?困りますよね。

しかし、ものは考えようです。
UE5はゲームには向いてないかもしれませんが、それ以外の物には向いてます。
それ以外の物ってなんじゃ?というと、”シミュレーション”です。

実は、テレビゲームはいわゆる純粋なゲームという側面以外に、”シミュレーション”という側面も持っています。
例えば、絶体絶命都市はアドベンチャーゲームであると同時に、災害時シミュレーションでもあると言えるでしょう。

そして、ゲームのシミュレーションとしての側面に目を向けると、UE5によってグラフィックスがリアルになる事は、より良く現実を再現する事ですから、現実のシミュレーションとしての品質が大幅に向上する事だと言えます。ゲーム性にはなんらメリットが無くても、シミュレーションとしてのメリットはすごく大きいわけです。

先ほど、ゲームメカニクスが現実寄せになると、ゲームとしての面白さが減ずると書きましたが、代わりに現実の再現度は上がりますから、つまりゲーム性を犠牲にしてシミュレーションの品質を向上させているという見方もできます。

以前に書いた記事で、インディーゲームの「A Short Hike」や「Vampire Survivor」がかなり売れているという話を書きました。

これらのゲームは、ドット絵に寄せたシンプルなポリゴンのグラフィックスだったり、あるいはモロにスーファミみたいなドット絵だったりしますが、メッチャ売れたわけです。

Vampire Survivorに対しては、ガッチマンさんは「ゲームはこういうのでいいんだよ!」と言ってました。

ドット絵などの非リッチなゲームは、ゲームメカニクスを現実寄せする必要がなく、シグニファイアも入れやすい(直感の体験がデザインしやすい)などの事から、ゲーム性を高めやすい事になります。

メジャーなゲームはリッチなグラフィックスが多く、その結果、ゲーム性が低くなりがちで、代わりにどんどんシミュレーション性が高まってます。

まとめると、テレビゲームにはゲームとしての側面とシミュレーションとしての側面があり、どうやらそれはトレードオフになってるらしいという事です。
インディーゲームとメジャーゲームの違いは、ゲーム性を重視する立場とシミュレーション性を重視する立場の違いなのかもしれませんね。

というわけで、私の抱えていた「UE5を使うとむしろゲーム性が下がるかも!」という心配ですが、しかしUE5はシミュレーションとしての品質を爆上げしてくれるので、つまりテレビゲームのシミュレーション側面に注目すれば良いと気付きました。

じゃあ何をシミュレートすればいいんだろう?
そうして考えた結果、日本をシミュレートする事にしました。
日本のシミュレートって主語でかすぎて何だか分かりませんが、まあ要するに、リアルな日本の風景をUE5で作ろうみたいなテーマです。

やりたい事は他にもいくらでもありますが、人生は1回だし、身体は一つしか無いので、ある程度テーマを絞ってやってった方がいいでしょう。
また、私もそろそろなにか一芸に秀でて、「○○でおなじみの人」みたく言われるようになりたいものです。

UE5で日本の風景をリアルに再現しまくってれば、「UE5で日本作ってる人」と呼ばれるようになるかもしれません。

まあ、今までもリアルな日本のCGを作ってる人は沢山いたでしょうけど、UE5でやってる人はまだあんまいなさそうです。
今まではリアルなCGは眺めるだけのものでしたが、UE5がもたらすであろう決定的な変革は、そのリアルなCGをリアルタイムで体験できるようになるという点です。

リアルな日本の3Dモデルを作るだけならそれはモデラーの仕事ですが、私としては体験を作って提供する所までワンストップで提供したいと思ってます。

それで何を作るかと言うと、さしあたっては結局ゲームだと思いますが、ある意味もはやこれはメタバースだよね?とか、デジタルツインだよね?という見方もできるでしょう。
ですから、今後バーチャル日本の制作をしていて、仮にゲームとしては芽が出なかったとしても、メタバースの盛り上がりやデジタルツインの盛り上がりに乗っかってシナジーさせる事は十分に可能だと予想されます。

要するに、バーチャル日本というのは今もっともニーズが爆上がりしつつあるコンテンツでありながらも、まったく供給が足りてないジャンルだという事です。そこを突いていきましょう。

「いやでも、バーチャル日本って言ったらすでにグーグルアースとかあるじゃん」という意見もありそうですが、たしかにグーグルアースは飛んでいる鳥くらいの視点ならばクオリティがすごいです。↓

しかし、目一杯寄ってみると、歩いてる人間の視点で耐えられる品質ではなくて割と3Dモデルがグチャグチャな事に気付きます。↓

これではゲームとかに使う事は不可能です。(まあフライトシムとかシムシティくらい引いた視点のゲームならいいけど)

私はゲーム化が前提のクオリティで風景を構築したいと思ってます。
というか現在そういうモノが存在しないので自分で作るハメになってるとも言えますが。

グーグルに言わせれば、人間目線の視点ならストリートビューで提供できてるからそれで満足してるのかもしれませんが、私としてはストリートビューだと体験として物足りないと思います。

まあグーグルはしばらくはグーグルアース以上のバーチャル日本の領域には食い込んでこなさそうなので、(グーグルは世界全体のバーチャルをやってるから細かい所は拾ってるヒマがない)そのニッチな隙間に自分が食い込める余地もあるかもしれません。

バーチャル日本クリエイターになりたい

「アンタが作らなくてもVRChatでワールド作ってる人一杯いるよ?」という意見もあるかもしれません。それはたしかにそうなのですが、VRChatはUnityなので、UE5でリッチなグラフィックスを出せばとりあえず差別化できないかな?とか思ってます。
それにしても、VRChatは3Dモデルをアップロードするだけで誰でもマルチプレイで体験できるコンテンツにすることができるので、3Dモデル製作者がプレゼンスを最大化できるプラットフォームだな~と思いますね。

たとえば日本列島VRの作者であり、それをVRChatにも移植したVoxelKeiさんはハコスコのメタバースマスターズのメンバーになってます。

ハコスコ、メタバースマスターズを結成し、ハイエンドなメタバース空間制作を提供するメタバースソリューション事業を開始

VRChatでハイクオリティな神社ワールドを制作されたRootGentleさんも、今はVKetとかVRChat関係で色々仕事をされているそうです。

私もなんかこういうポジショニングしたいな~。

どうして私が自分の芸風を確立してバーチャル日本芸人になりたいとか言い出してるのかと言うと、その理由の一つとして、”UnrealEngineエンジニア不要説”があります。

UEは機能が充実しすぎているので、もはやプログラミングは1行もコード書かなくてもゲームが作れてしまう勢いです。ブループリントが便利すぎます。
「今後中途半端なゲームエンジニアは不要な存在になっちゃうかもしれない…せや!芸人化して生き残ろう!」みたいな危機感を覚えてるわけです。

まあ、プログラミング不要と言っても、エディター上で使う便利ツールとかは適宜作らないといけないかもしれませんが、それもエンジニア的な仕事というよりテクニカルアーティスト的なものだったりしますし。

あらゆる業界で高まりつつあるリアルな日本の3Dグラフィックス

実際問題、”リアルなグラフィックスによる日本をリアルタイム体験できる”というニーズはあらゆる業界で相当高まってる気がします。

たとえば”観光”です。
JTBは2021年4月に「バーチャル・ジャパン・プラットフォーム」を発表しました。

最近はコロナ禍の影響で、海外に旅行に行ったり外国の方が日本に旅行に来ることは難しくなってます。
そこで、バーチャルな観光プラットフォームを立ち上げて、世界中の人にバーチャルな日本を楽しんでもらい、日本の魅力を伝えつつ、あわよくばお土産とかを物理的に買ってもらおう!という、素晴らしいコンセプトのプロジェクトです。

それはいいのですが、発表当時、「グラフィックスがPS1みたいなクオリティじゃね?」みたいに言われていました。メッチャ古臭い時代遅れなゲームみたいなグラだというわけです。
ゲームならグラフィックスがリアルならいいってもんでも無かったのに対して、シミュレーションはうってかわって高いリアリティが求められるケースがあるという事でしょう。

そして、リアルで一貫性のある日本の3Dグラフィックスを作る事はかなり困難な作業であり、普通にやってしまうとこのJTBのバーチャル日本みたいなグラになりがちであるという事も言えるでしょう。

JTB「バーチャル観光」ツッコミ殺到で開発難航? 9か月音沙汰なし、広報「新たに公表できる内容ない」

2021年5月、JTBに引き続いてANAもバーチャル旅行プラットフォーム「SKY WHALE」を発表しました。

JTBがグラで批判されてた教訓を生かして、ANAはリッチなグラを想像させるイメージ画を出してきました。
しかし、これは単なるイメージ画に過ぎず、実際に動作している様子は公開されていないので、このイメージ画以外は何も作られていないかもしれません。そういう意味ではJTBの方がまだマシな気がします。

しかし、不思議なイメージ画ですね。私は最初、てっきりこれは中村さんが作ったUE4向けの有名な京都アセットを使ったんだろうと思いましたが、京都アセットには五重塔はあるものの、こんな通りのCGは入ってません。かといって、写真にしてはなんとなく整然としすぎていて不自然です。もしかするとガチでこのクオリティで祇園全体のCGを作っているのかもしれない…。

UE4向け京都背景アセット「Kyoto Alley」が18,075円でリリース、商用利用も可能

さて、観光業界の次は、”建築土木”業界です。
どうして建築業界でリアルな日本の3Dグラフィックスなんかが必要なんだよ?と思うかもしれません。
しかし、たとえばこちらのセッションでは、建築コンサルの方が、河川の土木工事のデザインにUE4を用いる事例の話をされています。

土木工事においては、「こんな感じで作っていこうと思います~」という感じでコンセプトデザインを関係者各位にプレゼンして合意を取る、”合意形成”のプロセスが必要となります。

今までは、模型を作って見せる事で合意形成してましたが、それだと「これで行こう!」と決まった後に、模型から実際の工事の図面を引き直すハメになったりしてクッソ面倒です。

ですから模型じゃなくてCGで合意形成できれば、CGならそのまま図面に起こせたりしますし、「もっとここをこうして欲しい」みたいな要望があった時も、模型だと作り直しですが、CGならちょこちょこっと弄れば対応できます。

そして、そのCGというのはリアルならリアルなほど、完成した川を正しくイメージできますから、高いレベルで合意形成できるわけです。
プレゼンの中ででてきた、実際にUE4で作られた川のCG画像がこちらです。↓

まるで写真と見分けが付かないクオリティのグラフィックスで、これなら模型なんかよりもよっぽど完成形がイメージできます。
自分がそこを実際に散歩する感じまで鮮やかに想像できますよね。

最近は、建設や土木の業界では、紙に二次元で引いた図面じゃなくて、3Dで構築したCADを先に作って、そこから図面にエクスポートする方がいいんじゃね?という流れがあります。
いわゆるBIMとかCIMとかいうヤツです。

BIMやCIMの過程で3Dデータを構築するのですから、どうせならそのデータで合意形成しちゃおうという話になります。せっかくならそのCGはリアルな方がいいわけで、さらにリアルタイムでくるくる動かしたり、またはVRで自分がその場にいるかのように体験できる方がいいです。

そういうわけで、このような業界でも今後、リアルなリアルタイムグラフィックスのニーズが爆上がりしつつあります。

まあこの辺の話はデジタルツインの話と被ってますが、デジタルツインのメリットはシンメトリーさんのこちらのページに詳しいです。

シンメトリーが実現するデジタルツイン

シンメトリーでは3DCAD、点群、GIS、交通、エネルギー、気象などのデータを一元的に扱う事が可能なそうです。
それによって、都市計画、交通、エネルギーインフラ、建設、不動産、小売りなどの業界とシナジーするみたいです。

私がやろうとしているバーチャル日本プロジェクトでも同じようなシナジーが発揮されると思います。

さらに別の分野として、”自動運転”でもリアルな日本のグラフィックスのニーズが高まってます。

自動運転のAIを、現実世界で学習させたらどうなるか?学習の過程で事故りまくってしまう事は容易に想像できます。
そこで、UE4などのゲームエンジンで構築されたバーチャル世界を使って学習させる手法が注目されています。

ホンダも使っている「ゲームAIで自動運転AIを鍛える」学習シミュレータ

自動運転シミュレーション向けの仮想空間を緻密に再現 文教大の川合ゼミとネクスティ社

AIの学習に使うバーチャル世界は、グラフィックスがリアルならリアルなほど良いわけです。

お次はメタバースの話です。
フェイスブックがメタ社に改名したあたりから、急激にメタバースというワードが盛り上がってバズワード化してきてます。
そのメタバースブームの背景にあるのは、ここ数十年での急激なゲームの進歩です。

最近のゲームでは現実と見分けが付かないようなリアルなグラフィックスがあり、さらにフォトナやRobloxのような、多人数リアルタイムコミュニケーションも可能になってきています。
これらの技術によって、「もはや現実のシミュレーションが作れるんじゃね?」という認識がみんなの中に芽生えてきた事が、メタバースという概念に繋がったと私は考えてます。
私が「これからゲームはマルチプレイ当たり前時代が来る」と前々から書いてた事も同じ話です。

で、メタバースの話をしてる人はNFTがどうたら~とかばっかり言ってる人が多いですが、たしかにそういう決済とかの話も大事ですが、メタバースのメインのコンテンツは”空間”であるはずです。
一体だれがその空間を作るんですか?

「でも、メタバースはせっかくバーチャルなんだから、わざわざ現実の世界をリアルに再現する必要無くて、SFみたいなのでよくね?」と一見思うかもしれませんが、そうでもありません。
例えば、フィクションでは、「”変”な要素は一つまで」にするという法則があると何かで読みました。
物語が、キャラもストーリーも両方普通だと、退屈ですよね。
キャラが普通だけど、ストーリーが変な場合は、面白くなります。あるいは逆に、ストーリーは王道だけど、キャラはヘンテコなパターンも面白いでしょう。
しかし、キャラもストーリーも全部が変だと、ワケが分からなくなって、読者は付いていけなくなるという事です。

現実世界でありきたりな住宅地を歩いてても、両方が普通だから退屈でしょう。
現実世界でディズニーランドみたいなファンタジーな世界を体験するのは、面白いです。
逆に、メタバースでリアルな住宅地を歩くのは、面白いです。
しかし、メタバースでかつ現実離れした不思議な世界を歩いてると、拠り所が無さ過ぎて、何だか分からなくなって付いていけなくなりがち…というわけです。

実際、clusterではわざわざバーチャル世界で現実の渋谷を再現してます。↓

ちなみに渋谷のバーチャル世界を作るのは簡単です。
NONECGさんによって制作された渋谷の駅前周辺のハイクオリティ3Dモデルが745ドル(ちょうど今セールで4割引きで447ドル)という安価で販売されているからです。

おそらくclusterのバーチャル渋谷もNONECGさんのモデルを元に作られていると思います。

それはいいんですが、逆に言えば渋谷以外の3Dモデルは存在しません。じゃあバーチャル新宿も作ってよと言われたらどうすんだという話があります。

誰かがメタバース向けにバーチャルな日本の世界を作っていかなきゃいけないという事です。

ちなみに無料の渋谷3Dモデルも存在します↓

https://3dcel.com/opendata/

無料なのは素晴らしいですが、グーグルアースよりも粗めなクオリティですね。航空機で撮影した写真からフォトグラメトリとかで生成したモデルみたいです。

ちなみに、CAD CENTERというサイトでは、銀座や新宿、丸の内、六本木の3Dモデルも販売されてます。

なかなかのクオリティで、人間目線で歩くゲームでも使えそうな気がします。
ただし、たとえばこの銀座のモデルはお値段80万円で、そこそこします。まあそれでもモデラーさんに制作依頼するよりはよっぽど安く付くでしょう。

上のMAPCUBEというハイクオリティ3Dモデルは特定のエリアしか用意されてませんが、REAL 3DMAPというシリーズは都心全体が用意されてるようです。

https://www.cadcenter.co.jp/real3dmap/tokyo/

ただし、メイン用途は空撮用(つまり、実際にヘリとか飛ばさなくてもCGで東京の空撮映像が撮れる)であり、人間目線でゲームに使える感じではないようです。(ページのFAQで寄った時のサンプル画像が見れます)

そういえば、ZENRINでもマップの3Dモデルが販売されてます。

https://www.zenrin.co.jp/product/category/gis/contents/3d/index.html

価格は625m四方の1ブロックあたり162,800円です。
提供エリアが結構広くて、練馬区、杉並区、世田谷区あたりも含まれてます。

秋葉原、博多、札幌のマップがUntiyアセットとして無料で提供されてるので、それらを見れば品質の感じがわかります。
人間目線のゲームでも使えない事は無いですが、最新ゲームクオリティという感じではないかなという感じです。

https://assetstore.unity.com/packages/3d/environments/urban/japanese-otaku-city-20359

という事で、ちょっと話が脱線しましたが、メタバースの分野でもリアルな日本の3Dグラフィックスのニーズがアツいという話でした。

というわけで、観光、建築、土木、自動運転、メタバースの業界について、例を挙げてきましたが、これらの話はほんの一例にすぎません。
ぶっちゃけ今、全ての分野がリアルな日本の3Dを求めはじめていると言っても過言ではないでしょう。

ゲーム、イラスト、マンガ、アニメ、映像でも強力に求められているリアルな日本の3Dグラフィックス

そもそもとして、日本のリアルな3Dは創作分野で大いにニーズがあります。

私が作ろうとしてるのはひとまずゲームですが、マンガやアニメ、映像においても強く求められていると思います。

twitterを見てると、すでに多くのイラストレーターがBlenderによる3Dを使った効率化を実践しています。Blenderはレンダリングに結構時間がかかりますが、UE5ならリアルタイムでプリレンダー品質のグラフィックスが表示できるので、これからはガンガンUE5が使われ始めると予想されます。

イラストだけでなく、マンガについても同様です。現在でもマンガの背景に3DCGが使われる事がもはや当たり前になって来てますが、マンガは白黒なので背景も白黒だったりしますが、それはマンガが紙に印刷される事が前提だった今までの話です。
これからはマンガはスマホやPC上で読むのが当たり前になっていくかもしれず、そうすると白黒で表現する必要ってあるんだっけ?という話になるでしょう。であれば、マンガもフルカラーが当たり前になっていくかもしれず、そうしたらUE5のリアルなグラフィックスが活用されるようになるかもしれません。
現に、コロコロコミックは付録だけ中に入ってて、マンガはWebで電子で読んでくださいというバージョンも売られています。

アニメ分野でも、リアルタイムに綺麗なグラがレンダリングできるUEは活用され始めています。たとえば、プリキュアのED映像は、以前はUnity製でしたが最近はUE4製に移行しています。

Unityだと映像作るだけでもライセンスを買わないといけませんが、UEなら映像作るだけなら完全に無料で使用できるというメリットもありますね。

ゲームについては、最近だとGhostwire:TokyoでPS5でリアルな東京が表現されてました。

これもNONECGさんの渋谷モデル使ってるのかな?

というわけで、創作分野全般においてもリアルな日本の3Dグラフィックスが要求され始めていると分かります。

しかし、現在はそれぞれのプロジェクトやクリエイターが、各々でモデルやアセットを用意しているようです。
もっと誰かが一元的にバーチャル日本を作って、それをみんなで活用した方が効率的なんじゃないの?という気もします。

”バーチャル日本プロジェクト”ではそういう感じの事もやっていけたらいいだろうなあ…とか考えてます。

リアルな日本の3Dグラフィックスはアレンジすると表現の幅が広い

リアルな世界の3D世界を作ったとして、それで作れるものって現代日本モノだけだよね?という話があるかもしれません。
まず、現代日本モノと言っても幅広いです。マンガだと現代日本を舞台に様々な作品が作られてます。

ゲームで言えば、カプコンは龍が如くシリーズを作ってます。
セガはシェンムーを作りました。

さらに、日本の3D世界はアレンジすれば色々と幅広く応用できます。

例えば、壊しまくれば絶体絶命都市の世界みたいにできるでしょう。↓

こちらの方は、Cities Skylineで作った都市を廃墟風にアレンジして、ポストアポカリプスな世界を表現しています↓

工夫すれば時代劇の世界とか、千と千尋の神隠しみたいな少しファンタジーな世界も作れるかもしれません。

高橋悠さんという方は、昭和124年という映像シリーズをtwitterで制作されています。これも現代日本の3Dを作って、それをアレンジする事で魅力的な世界観を作っているものです↓

というわけで、とりあえず現代日本の3D世界があれば、そこから応用次第で色々できるだろうという話でした。

”バーチャル日本”を作る意義

私は最初は自作ゲームのために仕方なく、バーチャル日本を作るしかないな~と思ってるだけでしたが、考えてみるとバーチャル日本には、もっと大きい意義が見いだせる気がしてきました。

ゲームに使うだけだと単なる娯楽用途でしかありませんが、バーチャルな日本を再現する事は、文化的意義もあると思います。現代の日本の姿を後世に伝えるとかそういう意味です。

たとえば龍lileaさんは、取り壊しされる事になった都城市民会館をフォトグラメトリで3D化する事で、素晴らしい建築をアーカイブして残す事ができました。

そもそもバーチャル日本の制作はメッチャたのしい

自分が長期的に取り組む事のテーマとして、それが今後盛り上がりそうだとか、食っていけそうとか、需要がアツいとかも大事な事ですが、それより何よりも、「自分がずっと夢中で取り組んでいける面白さ」があるかどうかが一番大事でしょう。

バーチャル日本の制作は、メッチャたのしいので、その要件を満たしてると思います。
とりあえず先に何か一つ作ってみようと思って、手始めに作ったのがこの家のモデルです。↓

とりあえずこれくらいのクオリティで統一して作っていけたらいいなあというベンチマーク的な意味で試しに作ってみました。
まあ作ったというより、自分が持ってる色んなUnityアセットとかUE4アセットからパーツ取りしてきて組み合わせただけですが、それでも結構時間がかかりました。

しかし、メッチャたのしい作業です。

こういう何の変哲もない日本家屋とかが絶対必要にもかかわらず、かえってこういうモデルって入手できなくて、自分で作るハメになったりするんですよね…。
それにしても、こういうモデルを作ってると、普段から死ぬほど見てるであろう普通の住宅が、細かい所がどうなってるか全然分からない自分に気付きます。
庭とかってどんな風になってるんだっけ?

そんなんですから、最近は散歩中に人の家とかをガン見して観察したりしてます。
つまり、バーチャル日本を制作するという事は、身の回り全てが制作資料と化すことを意味します。

これはまあ、なかなか面白いです。

バーチャル日本プロジェクトは、生涯かけて取り組むようなボリュームがありますし、それだけの価値があるかもしれないと今のところ感じてます。

バーチャル日本制作のカギを握るのは、オープンデータとUE5

私がバーチャル日本について考え始めたのは、今に始まった事では無く、実は数年前から試行錯誤してました。

当時の私は、Unityを使ってリアルタイムCGでアニメ作品みたいなのが作れないかな?と考えており、とりあえずアセットストアで日本アセットの収集を始めました。

当時の成果物はこの動画です↓

ストリートビューで見かけた風景をUnityで再現してみるといった事もやってみました。↓

私は個人的な好みとしては都心よりも田舎を作る事に興味がありますね。

この時分かったのは、バーチャル日本の制作はメチャメチャ大変だという事です。

そこで目を付けたのは、自治体が公開していたオープンデータです。
2020年1月、兵庫県が、県全体の1m解像度のDEMデータ(地形データ)を公開した事が話題になってました。こういうデータを活用すれば、バーチャル日本の制作が効率化およびクオリティアップできるかもしれません。

それまでは、このような高解像度のDEMデータは入手できず、国土地理院が公開している5m解像度のDEMしかありませんでした。
5m解像度って、要するに1ピクセルが5mの画像みたいなもんで、一つの部屋が1ピクセルで全部塗りつぶされちゃうような解像度の低さです。
これではゲームに使う用途は望めません。せいぜい山の形が分かるくらいのものです。

兵庫県の1m解像度のデータなら、ゲームに使えるかも?と思った私は、早速QGISを使ってDEMデータを弄ってみました。

↑これを見ると、たしかに建物の形がハッキリと判別できる程度の解像度があって、素晴らしい事は素晴らしいですが、グーグルアースよりは悪いね程度のクオリティなので、やっぱりゲームには使えないよね…とガッカリしました。

とか思っていた丁度その時、今度は静岡県が伊豆半島の点群データを大量公開するという事件が起きました。

私は「これでバーチャル日本が作れるかも!」と食いついて、点群を使ってUnityでワチャワチャやってました。

↑このように、静岡のMMS点群はなかなか優れたクオリティで、兵庫県の1m解像度から、一気にミリメーターレベルの解像度に飛躍しています。
とは言え、MMS点群は自動車から計測している都合で、ごく一部の道路しかデータがありませんし、建物のデータも自動車から見えない部分は崩れてますから、ゲームに使うのはキビしいな…という結論になりました。

Unityだとグラフィックスのクオリティに限界があるし、オープンワールドのような広いマップがサポートされてないという問題もありました。

そんなこんなで、この時は一旦バーチャル日本の制作はフェードアウトしたのですが、当時と違って今ではUE5が登場しています。
そして私も去年からUEを本格的に勉強し始めて、そろそろ扱いに慣れ始めたところです。

UE5の新機能、Lumenがもたらす超リアルなグラフィックス、Naniteによる無限のポリゴン描画、ワールドパーティションによる巨大なオープンワールドのサポート、これらすべてがバーチャル日本の世界を制作する上で極めて便利です。

このUE5の強力な機能と静岡県の高品質な点群データ…これを組み合わせれば今度こそバーチャル日本の制作がイケるかもしれない…。

そういうわけで、最近はまたワチャワチャと検証を開始してます。

その成果として、静岡のLP点群を10cm解像度のDEMデータのようにしてUE4のランドスケープに読み込んでみたのがこちらです。↓

いかがでしょうか?道路の形までしっかり取れていますね。
個人的には、「ついに人間目線で使えるくらいの地形が手に入った!」と感動してます。ここからテクスチャなどをブラッシュアップしていけば、ゲームクオリティの日本マップが作れるかもしれません。

そういう経緯で、ついに今こそ、バーチャル日本を制作する機運が整った!と思うに至ったわけです。

地形が手に入ったのはいいんですが、他の大きな問題としては、「道路をどうするか?」と「建物をどうするか?」というのがあります。

道路については、オープンストリートマップのデータと国土地理院のデータを加工すれば何とかなるかもしれないと考えています。

困っているのは建物です。
いわゆる普通の日本の家とか建物の3Dモデルというのは、アセットストアでチョッピリ売っているモノ以外は全然手に入りません。

こればっかりはしょうがないから自前でコツコツ作っていくしかないか…と今は思ってます。

というわけで、UE5の登場と、自治体によるオープンデータ公開の流れによって、バーチャル日本制作の実現性は飛躍的に向上したという話でした。
静岡の高精度な点群データは、今までは伊豆半島のデータだけでしたが、ついこのあいだ富士山周辺のデータも追加されました。

さらにもうすぐ静岡県の残りのデータも公開予定だそうです。

これにより、静岡のデータは大変充実してきていてありがたいのですが、逆に言うと静岡以外のデータはまだあんまりありません。

静岡に続いて同じようなデータを公開してくれる自治体がどんどん出てきてくれることを期待しています。ちなみにデータの精度は高ければ高いほど嬉しいです!
超高解像度のオルソ写真とかも持ってるなら出してください(欲張り)

バーチャル日本的なコンテンツの先行事例

私がやろうとしている「バーチャル日本プロジェクト」は、バーチャルな日本をシミュレートしよう!というものですが、すでに同じようなコンセプトで先行事例はあるっちゃあります。

例えば、畳部屋さんのNostalgic Trainです。

https://store.steampowered.com/app/801260/NOSTALGIC_TRAIN/

京都の伏見稲荷大社を再現したウォーキングシミュレータもあります↓

https://cavesrd.itch.io/kyoto

私はこれをプレイした時、京都に住んでいた時によく行っていた伏見稲荷の風景を鮮明に思い出して感動しました。
この方は現在、山形の山寺も制作中です。

VR JAPANという、見慣れた日本の風景をVRで完全再現したシミュレータもあります。

https://store.steampowered.com/app/1494400/VR_JAPAN/?l=japanese

しかし、こちらのVR JAPANとか、Steamページを見るとレビューが43件しか無くて、言うほど売れてない気がしますね。
今まで散々バーチャル日本がアツい!って書いてきたのに、実際はそうでも無いんでしょうか?

いや、そうではなくて、建て付けの問題なのかもしれません。
Steamでゲームとして売ると、どうしてもゲーム性がどうのとかで判断されがちですが、とは言えこの作品は明らかにゲームでなくシミュレーションです。
むしろバーチャル旅行ですよ!みたいな売り方をした方が売れたのかもしれません。

他の例としては、Inasaさんが制作中の、Inaka Projectがあります。

また、かの有名なチラズアートさんは、日本を舞台にした色んなホラーゲームを制作されていますが、それらも一種のバーチャル日本のシミュレーションと言えるかもしれません。

錦の北条さんはUnityでリアルな日本の都市を再現したアクションゲームを制作されています。

まとめ

最近、ゲーム研究について調べれば調べるほど、UE5でゲームを作るのって本当に正しい方向性なのか?と分からなくなって悩んでましたが、「自分が作るのはゲームというよりバーチャル日本というシミュレーションなんだ」という風に捉え直してみれば、正しい方向性を向く事が出来た気がするという話でした。

長々と書いてきましたが、「で、結局これから具体的には何をするわけ?」という話がありますね。

何だかんだでこれから作るのは、”バーチャル日本のシミュレーションという要素を兼ねたゲーム”だと思いますが、いきなり日本の街一つ再現したりできるわけでも無いでしょう。

例えば、最初は家を一つだけ作って、それを舞台にしたゲームを作るとか…。
これは同じような例としては、Inasaさんの「梅雨の日」があります。

その次は、家の周りの区画まで作って、またゲーム化する…その次はもっと広いエリアを作ってゲーム化…という風に段階を踏んでいって、最終的には巨大な街を再現してゲーム化する…みたいな流れでやっていくと良いのではないかと考えたりしてます。

なにしろ個人開発なので、そういう風にちょっとづつ作っていくやり方じゃないとどうせ不可能ですからね。

ちなみに、静岡の地形データを使うからと言って、必ずしも静岡を完全に再現するかどうかは分かりません。別にゲームの舞台にするだけなら架空の都市でもいいわけですが、ゼロから架空の都市を作ると言われても取っ掛かりが無さ過ぎて手も足も出ないので、とりあえずの叩き台として静岡のデータを使わせてもらうという感じです。

最後に、保険をかけておきたいのですが、「バーチャル日本プロジェクトやります!」って言ったものの、これは大々的に対外的に発表しているというより、個人的な意気込みを日記に書いているくらいの捉え方をしておいていただけると助かります。

何しろ実際にはまだ何も見せられるものが出来てないですしね…。
そして、今まで頓挫したプロジェクトの数では誰にも負けない私ですから、制作途中で、やっぱアイデアが間違ってたわ…ってなってフェードアウトしちゃう可能性もあるっちゃあります。

それはさておき、静岡の点群データをUE4に読み込むにあたって色々やった覚え書きのネタが溜まっているので、これからはその辺の話をブログに書いていくつもりです。